日常のち誕生日

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その雰囲気に何かを感じ、拒否することなくミーシャが頷くと、叔父は厨房の奥に消えていった。 そしてミーシャは皆に向き直り 「ごめんね、ちょっと行ってくるから」 そのままミーシャは叔父の後を追う。 主役の、ミーシャの居なくなった店内には、スフィアの悶える声だけが響いていた。 厨房を抜けた先の裏口から外へ出る。家1軒分のスペースの空いたそこでは、叔父が夜空を見上げながら葉巻を吸っていた。 「来たか」 白い煙を吐きながら、渋い声で言う叔父に、しかしミーシャは冷たい視線を返す。 「来たか、じゃないよ。何で吸ってるの」 積もり積もれば害を及ぼすそれを、少女は嫌っていた。寿命を縮める、別れを早まらせるそれが、少女には怖かった。 そんな心配を他所に、叔父はまた一息、葉巻を吸う。 「叔父さん!!」 思わず声を荒げる。 すると叔父は何故かふっと笑いつつも、ズボンのポケットから黒い箱を取りだし、葉巻を押し入れ、そして徐に話し始める。 「なあミーシャ、最近西の山に極彩鳥が現れたって知ってたか?」 「え……あ、うん」 話をすり替えられたと分かりつつも、頷き返す。 一時期、噂は度々耳にしていた。だが、信憑性が有ったかと言われれば、無かったように思う話。 皆が面白半分のネタにしてた、そんなところだった。 そんな話を何故今更するのかとミーシャが疑問に思うなか、叔父は続ける。 「今日の昼過ぎか。何人かが極彩鳥を見たと騒いでたのを知ってるな?」 「うん……暑さにやられて幻覚でも見たんだろって、お客さんが話してたやつだよね」 来店早々、友人らしき人物に駆け寄り、息切れ切れに興奮した様子で語り、そのままパタリと熱中症で倒れた客がいた。 介抱したのが自分だったから、ミーシャもよく覚えていた。 他にも真夏の昼間に外に出ていた街の者が数人、そう叫んだらしいが、そんな歴史的な事態が起きたと誰も信じるわけもなく。 叔父はそうだと頷き、神妙な面持ちで告げる。 「……それでだ、情報によると、どうやらそれは本物の極彩鳥だったらしい。そして、翔とフレリアも西の山に向かっていた。……ミーシャ、どういう意味かわかるか?」
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