日常のち誕生日

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涙を流すミーシャに、叔父は微笑む。 「……お前が泣くのを見たのは何時以来だろうな。あの二人が来てから、良い意味でお前は変わったよ。寂しがる素振りも、俺を怒鳴ることも、ましてや嬉し涙なんて、昔じゃ考えられなかった」 感慨深げに過去を思い返しながら言う叔父に、ミーシャは涙を拭くと少し苦笑して 「そうだね……そうかもしれない」 両親の死後、一年ほど過ぎたあたりからミーシャは泣くことを止めた。 寂しいと言葉に出すこともやめ、明るく振る舞い始めた。それは叔父の辛そうな顔を見たくなかったから。 そして感情を抑えるようになり、笑顔を作ることだけが上手くなっていた。 それが今は、思った瞬間、怒って泣いて悲しんで……確かに変わったのかもしれない。 「色んな過程をすっ飛ばしてお前は大人になろうとしてたが、やっとこさ一端の女の子のように感情を出すようになった。俺は嬉しい限りだぞ、この馬鹿娘」 ミーシャの頭に手を置き、叔父はわしゃわしゃと乱暴に撫でる。 「いた……痛いって、叔父さん」 そう言うも、ミーシャの表情は全く嫌そうではなく、寧ろ笑っていた。 そして一頻り撫で終えると、叔父は手を離し 「さて、俺が言いたいことは終わった。取り敢えず、翔とフレリアはきっと帰ってくる。あいつ等は家族だ。なら、俺達は信じて待つだけだ」 「……うん」 ミーシャは微笑みを返す。二人の想いを知った今、ミーシャから不安は消え去っていた。その表情に叔父は頷き 「それよりもだ、主役がいなきゃ意味がないからな。ミーシャ、先に戻ってろ」 「……そうだね、じゃ先に戻ってるね」 そのまま裏口を開け店内に戻っていくミーシャを確認すると、叔父は葉巻を入れた黒い箱を取り出すと、新しい一本を取り出す。 「娘が成長した祝いだ。見逃せよ、ユシア」 自らの妹に念を押すよう空に告げ、指先に火を灯し葉巻に火をつける。 そして一息、味わいながら吸い、ゆっくりと息を吐く。 その眼を少し、分からぬ程度に、潤ませながら。
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