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「ごめんね、お待たせ……って、どうしたの?」
先程とは違う笑みを携え、ミーシャが戻ってくると何故かスフィアが眼前に立ち塞がってきた。
何だろうと思い視線で尋ねると、スフィアは気まずそうな顔をして言う。
「何だ……事情を知らなかったとはいえ浅慮な発言だった。すまない」
目を伏せるスフィアの後ろで、申し訳なさそうに頭を下げるアリシアと苦笑しているレイアの姿。
事情を悟り、ミーシャはスフィアの頭に手を置き言う。
「気にしなくていいよ、話は全部叔父さんから聞いたから。それにね、私、今とっても嬉しいの。だからそんな顔しないで、スフィアらしくないよ」
そう言うミーシャの表情は本当に嬉しそうで。気丈に振る舞っているのではなく、それが本心であった。その思いは皆にも伝わる。
スフィアも顔を上げ、そうかと安堵の息を漏らすも、頭上の手にジト目を返す。
「でもな、目上の者の頭を撫でるのは感心しないぞ」
「ふふ、固いこと言わない。それに今日は私の誕生日です」
そう誕生日、それは『まあ、しかたないな』と些細な事ならなんとなく許してしまう日。
それはスフィアも同じなようで
「む、むぅ……だがな、威厳というものがだな……」
若干頬を紅くし、後ろをチラチラと渋るスフィア。そこにリックの杏仁豆腐を食べながら静観していたハンクが口を開ける。
「いいじゃねぇかマスター。今日の主役はミーシャだ、撫でられるくらいいいだろ。寧ろ気持ちいいんじゃねぇか?」
ニヤニヤとハンクは笑いかける。
「ば、ばかを言うなっ。そんなわけが「俺にもそう見えたが、違うのか?」……なっ?」
被せられた声に振り向くと何時の間にやら、厨房で叔父が腕を組みながら笑っていた。
「あ、貴方までそんなことを……仕方ない…ミーシャ、今日だけだぞ!!」
意を決したように叫びに近い声のスフィアに、しかしミーシャは手を離すと首を振り
「ううん、もう充分だから」
「おいっ!!」
「かっか。それよりもだ、俺の気分が良いから今からもう何品か作ってやる。食えるな?」
不敵な笑みでそう問いかけられ、拒否する者はいなかった。
そしてその言葉に倒れていたリックさえも覚醒する。
「……ぅ、うおっしゃー!!俺だってまだ食いたりねぇ!!こっからが本番だー!!」
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