日常のち誕生日

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月を背にしているため見にくかったが、間違いなく翔だった。だが死んだようにぐったりとしていて、まるで何かに運ばれているようで。 そのままミーシャの手前、上空二メートルほどまで来て、耐え切れぬかのように翔はボトリと仰向けに地面に落ちた。 「っ……か、翔!?」 呆然と眺めていたミーシャ。はっと気が付きすぐさま駆け寄り、体を起こそうとしたとき、体の下から這い出てくる小さな体。 「う~……重かったぁ……あれ……ミーシャ?」 フレリアであった。 しかし、顔を上げ自分を見るフレリアの瞳は酷く虚ろで。両手で掬い上げ、ミーシャは心配を露わに語りかける。 「こんなになるまで……大丈夫?怪我してない?」 尋ねられ、フレリアは力ない笑顔で答える。 「えへへ……ちょっと無茶しちゃった。ごめんね……遅れちゃった……」 謝られ、しかしミーシャは首を振る。 「ううん、大丈夫。まだ約束の三日目の夜だから、ね」 ちゃんと帰ってきてくれた、ならば、謝る必要なんてどこにもない。 安心させるように頭を撫でながらミーシャは言い、それが伝わったのか、フレリアは安堵の表情を浮かべ 「……そっかぁ。……あのね、ミーシャ……」 最後の力を振り絞るように、消え入るような声で 「誕生日…おめ…で…と……」 言い終える前に限界に達したのか、保っていた糸が切れたようにフレリアはパタリと眠りについた。 それでもミーシャはその言葉を反芻し、噛み締めるように頷く。 「うん、ありがとう……」 フレリアを掌に乗せたまま、ミーシャは優しく、起こさぬように胸に引き寄せ、抱きしめた。
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