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夏の猛暑が過ぎ去り二ヶ月弱。山は紅く色付き、若干の肌寒さを感じるようになった今日この頃。
秋が訪れる迄に、色々なことがあった。
リックさんとハンクさんに騙され他大陸に出張し、怪しげな薬でマスターとレイアさんの身長が反転したり、エアリィさんの里帰りに同行し、挙げ句泥棒騒動。
今思えば、イベントが絶えない日々だった。
そしてランク3に昇進した現在も薬草摘みばかりしている俺は、荷物が山積みにされた微妙に異臭を放つ馬車と並び歩いているのだが。
「いやー助かった。あんたが来なかったらあそこで野宿するはめになってたぜ」
ニッシッシと笑う馬車の持ち主。
クエスト帰り、深めの溝に脚を捕られていた馬車を引っ張り上げたのが事の始まりである。
何でもフローヴァルに居を構える為に遠路遥々やってきたらしく。
「あんなミスをするとは……長旅で疲れてたんだなホント。ああ、忘れてた。俺の名前は八尋って言うんだ。歳は18。あんたは?」
「戸神翔。俺も歳は18。趣味は食べることと昼寝だ」
「奇遇だな、俺も趣味は食べることと昼寝だ」
ほぉ……
「キノコの山とタケノコの里。どっちが良い?」
「そんな山と里があるのか?ふーむ……タケノコ一択」
「……可愛い動物一位は?」
「んー、猫以外有り得ない」
「…………」
「…………」
ガシッと、俺達は無言で握手を交わした。
何だろう、八尋。こいつとはとても仲良くなれそうな気がする。
そして俺と何処か似てる気がする。
だがそれは感覚上の話。
八尋の風貌は全くと言って良いほど違う。
身長は160後半か。顔立ちの整った色白の小顔、気の抜けたような藍色の垂れ目。
そこまでは街にもちょろちょろいそうな少年Aなのだが、他が変わっていた。
雪をそのまま髪にしたかのような白一色のクセの入った頭髪。そして相反するように身に纏う黒のマント。
極めつけは、首から俺なんぞには分からない、なんというか、芸術家が『歪んだ心を形にした』みたいな感じのうねりにうねった首飾りを着けていて。
一言で表せばうさんくさい怪しい魔術師。そんなイメージが浮かぶ風貌だった。
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