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そのまま気が合った俺達は猫談義に興じて、フローヴァルの門が見え始めた頃。
「八尋はさ、何のためにフローヴァルに来たんだ?」
俺の何気無い質問に、八尋は細かく事情を話してくれた。
「ん、俺は魔法薬の調合師なんだ。師匠にこの街で遣り繰りしてみろって言われてな。師匠が昔住んでいた家で店を開くために馬鹿みたいな距離を旅してきたのさ」
「魔法薬の……それはご苦労なこった」
風邪に頭痛に花粉症、次いではドーピング薬から媚薬まで。注文を請ければ多種多様な薬を売り捌く職業。
それが俺の本で得た調合師の知識。だが、世間ではそこまで良い印象を持たれていないようで。
表情に出てしまってたか、八尋は苦笑しつつも首を振り
「そうでもないさ。それに……お、もう着いたか」
いつの間にか検問所前にいた。
八尋は慣れた手付きで許可証らしきものを取りだし、手早く話を終わらせるとこちらを向き
「ま、これから数年はこの街に居座るつもりだから」
そして荷物を軽く漁ると小さな小瓶を俺に投げてきた。
「おっと……何だこれ?」
白く濁った液体が瓶の中で波打つ。日に翳しながら眺める俺に八尋は笑いかけ言う。
「世界には自分と似た人間が3人はいるって言うが、それはその一人に対する出会いの記念とお近づきの印ってことで」
「俺がそうと?簡単に判断するんだな」
「なに、直感だよ。翔もそう思ってるんじゃないか?」
……同じように感じていたわけか。ホントにそうなのかもしれないなこれは。
「……そうだな、それじゃありがたく貰うとするよ。で、これなんなんだ?」
改めて訊き返すと八尋は含み笑いをして
「師匠秘伝の媚薬」
そう返してきた。
「要らんわ」
思わず突っ返そうとすると、八尋は少年の様に無邪気な顔をして
「冗談だって冗談。ただの傷薬さ。けど効果は保証できる代物だから」
その言葉は嘘ではないようで、そのまま八尋は続ける。
「職業柄、あと……ま、まあ、友達少ないんだよね俺。だからこの街で第一号の友人にプレゼントってことで。だからさ、貰ってくれよ」
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