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そこまで言われたら、このよく分からない物体も貰うしかない。
ぶらりと伸ばした手を引っ込め、上着のポケットにそれを仕舞う。しかし……貰いっぱなしってのもスッキリしないな。
「じゃ、お返しってことで、俺も引っ越し作業手伝ってやるよ」
俺の言葉に八尋は少し驚いた顔をした後、クスリと笑い
「それじゃあ、お言葉に甘えようかね」
「ああ。で、家は何処なんだ?」
フローヴァルには空き家が中々に点在していたと思う。ふらりと旅に出る人が多いやらなんやらで、まあ俺には関係ないんだけど。
八尋は少し思案した後、地図らしきものを取りだし
「えっと……師匠の地図によるとだな――――――」
――――――
街に西側。やって来たのは見覚え……というかちょくちょく訪れる喫茶店の真隣の空き家だった。
「まさか此処だったとは……」
ここに来るまでに横を通り過ぎる人たちは、風邪引き以外皆顔をしかめていた。それほど、積み荷は異臭を放っているわけで。
のんびり空間である喫茶店の横に、強烈な臭いたっぷりの魔法薬の店が在っていいものなのか。
そうマスターのことを危惧していると、ちょうど店の扉が開く。
「ああ、やっと来たんだね。待ってたよ」
それは待ち人が来た事への安心感の漂う声色だった。
そのままマスターが歩いてくるが、そうすると必然的に馬車に身が隠れていた俺を見つけるわけで。
「ん?翔くんじゃないか。どうして君が八尋くんと?」
「いえ、ちょっと成り行きで。それよりマスター、八尋のこと知ってるんですか?」
「ああ、八尋くんの師匠とは古い仲でね。世話してやってくれと頼まれていたんだよ」
「へー、そうなんですか。俺は八尋とは何だかんだで友達になったんですよ……って、どうした八尋?」
話してるなか、八尋を見ると小刻みに震えていた。そのままゆっくりと八尋は口を動かし始める。
「まさかの新事実に驚きが隠せない」
「何故お前が知らない」
「いやさ、師匠ってそういう人なんだよ。サプライズ好きとでもいうのか」
その言葉にマスターが懐かしそうに笑う。
「変わらないようだね、その性格は」
マスターと八尋の師匠は古くからの親しい間柄なんだろう。
その人の話題と云うだけで、こんなにも嬉しそうな顔をしているんだから。
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