誕生日のち出会い

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「最上階だと?あの部屋は今……待て、お前にそれを教えたのは誰だ?」 「マスターです。ああ、喫茶店の方ですよ」 間違えられぬよう付け足したが、意にも介さずマスターはじっと頂上を見つめたまま動かない。 「誰かわかったんですか?」 「……分からん。だが、クロウリーがそう言ったということは……」 くるりと、マスターが背を見せそのままつかつかと早足にギルドに戻っていく。 反復を繰り返す扉の外で呆然としていると、進んだところでマスターは理解に苦しむような顔を向けてきた。 「何をしている。お前が来なければ意味がないだろ」 「……その通りですね」 扉を押し退け、すでに階段を上り始めたマスターを追いかける。 その時、自分に視線が集まるのを感じ周りを見渡すと、ニヤニヤと笑う人多数。 大方俺がまた何かしでかしたとか思われてるんだろう。 「俺、今回は何もしてませんから!!」 弁明の一つでもしておかないと俺の立ち位置が危うくなりかねない。 言い訳にも聞こえる叫びを残し、階段へと向かうと俺を茶化す声。 「翔くん、また何かしたのかしら?」 木のジョッキを片手に、その人はふふふと笑いながら紫の液体を注いでいた。 「だから、何もしてませんよ。エアリィさんにまで疑われたら俺やってけません」 「あら、嬉しいこと言ってくれるのね。それで、スフィアのあの表情は中々面白い事態と予想するけど、そこの所どうなの?」 エアリィさんがカウンター越しに、グイッと身を近づけてくる。この人もこの人で、そういう話好きだなーホント。 「そんな面白い事態とは思えないんですけど。簡単に話すとギルドの最上階で誰かが俺を待ってる様なんです」 「ギルドの……?それであのスフィアの顔ということは……まさか!?」 その瞬間、エアリィさんの手から離れ自由落下を始めるジョッキ。 「おっとぉ!!」 何とかキャッチしたが三分の一ほどが手に降り注いだ。これ酒だな……凄いべたべたする。 そんな俺にお構いなしに、エアリィさんのテンションが急上昇していく。 「面白いじゃなくてすごい事態よこれは!!そうね、5年ぶりかしら。ああ、色々買い出しに行った方がいいかしら。レイアにも知らせなくちゃ。それに―――」 「よくわかんないですけど、マスターが待ってるんで行きますね俺」 「それと後は――――――」 「……ふぅ、仕方ないね」 俺の言葉が届いてないのは、分かりきったこと。
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