誕生日のち出会い

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階段を駆け足で昇り始め二階から三階への階段へ差し掛かった一段目。 見上げると正面の踊り場で壁に背を凭れ腕を組み、俺を見下す形でマスターが立っていた。 「やっと来たか、早く行くぞ」 そのまま階段を上り始めるマスターの一歩後ろで俺は言う。 「何というか、微ツンデレって感じっすね」 「ツン…デ……何だそれは?」 気になるワードだったか、足を止めマスターが振り向く。 その位置俺より二段先、なのにそれでも俺の方が頭半個分高い目線にいる。 これは、あまりにも…… 「おい、何故そんなしんみりとした表情なのだ?」 「いえ、レイアさんと身長が反転してたマスターを思い出してつい……」 泣けてくる、あの時のマスターはとても生き生きしてた。夢が叶って、天変地異が起きるのではと皆が恐れたほどはしゃいでいて、それなのに…… 「お、おい、何故泣き始める。別に私は背の事はあの一件で諦めたのだ。戸神が気にする必要はない」 「そうなんですか?」 「うむ、まあ、この背も悪くないとな」 背が変わって何か思うところがあったのだろうか。ホントに、気にしてないっぽい。 「……せっかく良い情報があったんですが、それじゃ必要ないです「ちょっと待て」……ね?」 何だろう、急にそわそわし始めたぞ? 「わざわざ情報を持ってきたのならば、聞かぬ訳にもいかぬだろう。言ってみろ」 「……今し方、調合師がこの街に越してきて……もしかしたらまたあの薬のようなものが手に入るんじゃと思ったんですが」 「……ほぅ」 調合師のフレーズに、マスターの目がカッと開いたのを俺は見逃さなかった。 「けど、もうどうでもいい話ですよね。忘れてください」 「……そうだな、どうでもよい話だな。しかし、この町に住む人間は一度見ておく必要がマスターの私にあるのも事実。その調合師は何処に住んでるのだ?」 何という棒読み。言ってしまえばいいのに、気になるって。まあ面白そうだから教えるけど。 「喫茶店の隣の空き家だった場所です。八尋って奴です。男ですよ」 「そうか、ふむ、まあ、気が向いたらだが、都合が合えば一目会いに行くとするか」 そのままツンデレの意味を聞くことも忘れたのか、マスターはそうかそうかとぶつぶつ呟きながら階段を上り始めた。 いやぁ、良い事したな俺。 八尋、明日か、もしかしたら今日にも客第一号が来るかもしれんぞ。お前が凍り付くのが目に浮かぶ。
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