誕生日のち出会い

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その男性は嬉しそうに目を細め立ち上がる。 身長は180ほどか、俺と同じ黒髪で顔は人を安心させるような温かさのある優しげな眼が特徴的で、片眼鏡を左目に、すらっとした体形に見覚えのある白のタキシード。 この人が、最初の…… 流れる緊張感に唾を飲み込む中、唐突にマスターが片膝をつき、礼儀ある丁寧な言葉を発する。 「お久しぶりです。私、マスタースフィアとギルド員一同、最大限の敬意を払い、貴方のご帰還を歓迎いたします」 「……うん?」 一瞬、誰だこの人と思わずにはいられなかった。 うちのマスターが誰かに頭を垂れる姿を初めて見た。え、何これ、誰これ? 相手方も似たようなことを思っているのか、苦笑いを浮かべ言う。 「毎度やめなさいと言っても、聞き入れる気はないんだね」 「こればかりは、ご勘弁を」 その返答に男性が俺を向きやれやれといった表情を向けてきて、俺も同意するしかなかった。確かに、キャラが違い過ぎる。 そのままマスターは立ち上がり、俺の横に立つ。その表情はどこか緊張していて 「マスター、緊張してます?ねぇ、緊張してますか?」 つい面白くておちょくってみると、マスターは怒ることなくこくりと頷き 「そうだな……だがな、この方は私たち姉妹の命の恩人であり、育ての親のような人なのだ。幾ら敬意を払い、感謝しても足りないのだ……」 「それって……」 意味深な言葉に、訊き返そうとするもそれは遮られ 「スフィア、私は少し翔くんと話をしたいから。話はまた後でいいかな?」 笑顔で言われ、マスターは少し頬を紅くし慌て気味に頷く。 「は、はい。それでは、また後で」 そう言い残し、マスターは魔方陣の光に包まれ、消えた。 「さて、何から話したものでしょう……そうですね、まずは自己紹介でも。と言っても、私には名が幾つもあるので」 「名前が……幾つも?」 「ええ、私の事はリンから聞いてますか?」 「はい、最初の天の使いで、不老不死の能力を持っていると……」 ただ一人、仙道照之を追いつめた人。 「私は力を得る時、代償として本当の名を失ました。なので、そうだね、初代とでも呼んでくれれば結構かな」
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