誕生日のち出会い

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―――――― 数分の後、使用人の案内で二人が通されたのは客用の応接間だった。 異様なほどにふかふかのソファに一緒に座り、部屋を見渡せば色彩豊かな絵画に高価な陶器、銀の食器。何所も彼処も、金持ちと示さんばかりの趣向を凝らしていた。 見たことのない品々に驚き、きょろきょろと眺めるレイアとは裏腹に、スフィアは憤りさえ覚えていた。 これ程の金を持っていながら、何故母はあんなに働かねばならなかったのか、どうして病気の母を助けてくれなかったのか。 まだ見ぬ父親に、スフィアは怒りしか抱かなかった。それでも、自分を抑え、冷静になろうと努めるなか、扉が勢いよく開かれる。 「おお!!サナの娘と云うのは君たちか!!」 入ってきたのは少々小太りの、茶髪で顎に白髭を蓄えた初老の男だった。 貴族らしい装飾の施された紳士服に、顔には年を覗わせるうっすらとした皺が見え、にこにこと笑みを浮かべていた。 そして男は、何の前触れもなくレイアへと向かい 「会えて嬉しいよ、私の娘よ」 抱きしめた。 「サナが死んだのは聞いている。済まなかった、私が知った時にはすでに遅かったのだ」 二人を見ながら男は謝る。その申し訳ないと許しを請う表情にスフィアの怒りも削がれ、男を見る事しかできなかった。 男に抱きしめられ放心していたレイアも、絞り出すように問いかける。 「ほんとに……お父さんなの?」 「ああ、そうだよ」 男はレイアを離し、顔を覗き込むように見ながらニコリと笑う。 「……お父さんっ」 今度は、レイアが男に抱きついた。何度も不安に押し潰されかけて、やっと見つけた安心できる場所。そう思えた、そうなると思っていた。 だが、スフィアは見てしまった。ほんの一瞬、男がにやりと下卑た笑みを浮かべた瞬間を。 「サナの娘たち、本当によくここまで来てくれた。長かった……これで、ようやく 無駄な金を消費する必要が無くなった」
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