誕生日のち出会い

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男は右腕を素早く腰へと持っていき、服の下に手を滑り込ませ出したのは―――――― 「レイアッ!!」 一本の短剣 「さよならだ」 片腕でレイアを強く抱き、逃げれぬようにして男はレイアの背へと短剣を突き刺し――― 「―――かはっ!?」 得なかった。 響いたのは鈍器で殴ったような低い音とレイアの声だけだった。男が驚き短剣を上げると刃が直方体に凍り付いていた。 「……お前か」 邪魔な、それこそゴミを見るかのような目で男は横を見る。その先には手から冷気を流し、怒りと戸惑いに苦悶の表情で睨むスフィアの姿。 「どうして……うあああっ!!」 理解できぬ状況にスフィアの頭を過ったのは母の言葉――――――妹を、レイアを守る事。 無我夢中で男に体当たりし、体勢を崩した男からレイアを引き剥がしソファ一つ分、距離を取る。 「レイア!!レイアッ!!」 揺すり、名前を呼ぶ。そしてレイアはうっすらと瞼を開き虚ろな眼を向ける。 「お……お姉ちゃん」 震える声に、殴られた個所を見ると紫に染まっていた。 「何で……どうしてっ!!」 叫ぶスフィアに、男は答えずくつくつと笑う。 「くく……まさか失敗するとは。だが、逃げきれるとは思わぬことだ」 その瞬間、扉が開き数人の兵士が部屋になだれ込んできた。 「そう言えば理由だったか。今から死ぬ者に言っても仕方がないが、ずっと存在が邪魔だった。捨てたかった……それだけだ」 無表情に、笑う訳でもなく、怒ることもなく、ただそう吐き捨てた。 「ふざ…け…な……」 「ん?何だって?」 「―――ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」 神童の名に違わぬ、膨大な魔力がスフィアの体から外へと吹き荒れ、青と黒の魔力が室内を駆け巡る。 「お母さんも、レイアも、私も、お前に否定される覚えはない!!私たちはお前の物じゃないっ!!」 スフィアは立ち上がり、男と兵士達に右腕を向ける。その掌には部屋に溢れていた魔力が収束していく。 「貴様!?何をしている、止めさせろ!!」 男の怒声に兵士は動き出すがもう遅かった。少女の手には高速で回転する球体。冷たい、絶対零度の声でスフィアは言い放つ。 「――――凍れ」 球体が音を立てて爆ぜ散り、氷の結晶が部屋を満たし、全てが止まった。
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