誕生日のち出会い

27/45
前へ
/605ページ
次へ
「―――っはぁ、はぁはぁ……」 がくりとスフィアはその場に膝をつく。目の前にはさっきと変わらぬ姿で固まる男と兵士達。それを確認しスフィアは何とか立ち上がりレイアを立たせる。 「……レイア、逃げるよ」 「え、でも……」 石のように動かぬ父親を、裏切った存在を気に掛けるレイアに、スフィアは口早に言う。 「大丈夫、殺しては無い。けど、もうすぐ効力が切れるから早く逃げないと」 出口は塞がれている、ならばとスフィアは後ろを振り向き、窓を開け軽やかに外へと出る。 そのままレイアへと手を伸ばすその後ろで男の眼がスフィアを射抜く。 「っ!!レイア、早く!!」 焦りから強引に手を引き、勢い余って地面に倒れるなか、室内から声が 「逃げきれると……思うなよ……小娘どもが……」 これでもかと憎しみの籠った声に、姉妹は畏怖し、走った。 脇目も振らず、スフィアはレイアの手を引きながら市街地を駆ける。 その怯え逃げ惑う被食者のような必死の形相は、街の人々が子供の遊びと勘違いできるものではなかった。 昼下がり、銀髪を揺らす姉妹を皆が目で追う。それでも、助けを求めることの出来ぬ二人は走るしかなかった。 走って、走って……だが魔力強化をしていない子供の、しかも女の子の速さとスタミナなぞ高が知れていた。次第に遅くなる姉妹の後ろから声が響く。 「見つけたぞぉぉっ!!あの姉妹だ、追えぇぇぇっ!!」 見れば、固まっていたはずの数人の兵士が迫ってきていた。 「もう時間が!?―――くっ、何か……」 このままでは追い付かれる、スフィアは足止めになる何かを探し、前方に見覚えのある馬車の後姿を見つけた。 「っ……ごめんなさい――――――」 決断は一瞬だった。横を過ぎる瞬間、両手に氷の剣を生成し、荷台の横壁と片側の車輪を切断した。 「ぬおおおぉぉぉ!?」 バランスが崩れ、馬車は傾き荷台と荷がちょうど真横にきた兵士を巻き込み道路に小さな山を作る。 「ん……?うおぉぉぉ!?なんだこりゃあぁぁぁ!?」 知人と談笑していたカラムの驚愕の声が響くとき、姉妹の姿は遠く彼方にあった。
/605ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5171人が本棚に入れています
本棚に追加