誕生日のち出会い

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―――――― 「くそっ、追え、追うんだ!!」 圧し掛かる荷を押し退け蛇のように兵士たちは這い出る。子供にコケにされた悔しさから顔を真っ赤にして鬼のような形相で走り始める。 「な、何が……」 カラムは口をあんぐりと開けたまま呆然とするしかなかった。箱が壊れ飛び出る荷物、袋が破れ零れる米や麦。 泣きたいという気持ちを通り越して絶望しかなかった。事情を知ろうにも兵士は走り去った後、どうしようもない、途方に暮れた時だった。 「く、くそ……」 荷がまた崩れ落ち、幾分か若い兵士が顔を出した。しかし、足が挟まっているのか悶える兵士にカラムは笑顔で手を差し伸べる。 「す、すまない」 引っ張り出し、また荷が潰れる音が鳴った。 「助かったぞ。では……がっ!?」 言葉だけのお礼を述べ、若い兵士は立ち去ろうとするが首に回る腕が一本。 「おい、どこ行こうってんだ。遥々来たってのに荷を潰されて……恩人に事情を説明するのが筋ってもんじゃないのかおいこら」 カラムは笑顔のまま青筋を浮かべ、兵士の首をギリギリと締め上げる。 傍から見れば最早ただのチンピラだった。そのまま締め上げ続け、抵抗していた兵士も遂には音を上げた。 「わ、分かった……話すから…は、離してくれ……」 「分かりゃいいんだよ、分かりゃあな」 パッと腕を離し尻餅をついた兵士の前に屈み、カラムは威圧するように訊く。 「で、何がどうなってんだ?」 「どうもこうも……俺たちの仕えるエリフォス家の御当主が襲われたんだ」 「エリフォス家、だと……?」 その名には覚えがあった。 体を過る嫌な予感にカラムは兵士に掴みかかり問う。 「まさか……お前たちが追ってるのは銀の髪の姉妹か!?」 「あ、ああ、そうだが……。兎も角、お前の馬車を壊したのもあいつ等だ。言うべき事は教えた。俺は先を急がせてもらう」 走っていく兵士を眺めるカラムに、見守っていた、と言うより口を挟めなかった商売仲間が声をかける。 「お前も無茶をする。しっかし、俺も少し見たんだが、あんな小っちゃい女の子が貴族を襲うとは……世も末だな」 悲観する仲間に、カラムは呟く。 「馬鹿言うんじゃねぇ……あいつ等はそんな事する奴じゃねぇよ」 「え?」 ゆっくりと立ち上がり、見えぬ姉妹の方を向く。 「やるせねぇな……畜生め」 それは貴族にか、自分にか。カラムは、嘆くことしかできなかった。
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