誕生日のち出会い

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―――――― ラスヴィエルから辛くも逃げ出し、それでも追ってくる兵士から逃れるため、二人は走り続けた。 山中に逃げ込み、獣道を走り、幾つもの村や町を過ぎ三日三晩。食料は途中で見つけた果物のみ。 人の声に、自分たちを指す言葉に怖れ、逃げて逃げて誰が敵なのかもわからぬ極限状態まで追い込まれそれでも逃げて。 身も心もボロボロに成り果て、名も知らぬ街の郊外で限界が訪れた。声も出ない、足も動かない……座り込みスフィアは空を見上げる。 光の無い、灰色の景色。そこからはらはらと白いものが降り始める。 「……雪だ。レイア、ほら雪だ…よ……?」 空を指差しながら、肩に寄り掛かる妹に声をかける。しかし、言葉は帰ってこない。 寒空の下、レイアは死んだように寝ていた。 「…………」 もう一度、スフィアは空を見上げる。降り落ちる雪を眺め、何故かいろいろな思い出を思い返し始めた。 母と暮らした日々、家の風景、幸せだった生活、それが崩れてからの日々、カラムの事、そして自分たちを今も尚殺そうとしている父親の事。 ―――それはまるで走馬灯のようで そのままスフィアも、レイアと同じように目を閉じようとした時だった。 ―――足音が聞こえた。ゆったりとした動作で自分たちに向かってくるそれはスフィアの眼を起こした。 音の方向にすぐに目を向ける。だが、やって来たのは兵士ではなく一人の男。長身で、雪に溶け込むような白のタキシードを着こみ、男は二人の前に立った。 スフィアは何時ものように逃げる気は無かった、いや、逃げようと思わなかった。不思議と、怖いという感情は襲ってこずスフィアはただ男を見上げる。 そして、男は微笑み、物語は冒頭へと戻る。 ―――――― 「―――それから、私たちはあの人と共に色々な地を巡ったのだ。この星の地下に眠る遺跡、氷山に眠る竜の巣、エルフの里に、水の都……今でも鮮明に思い出せる……む、どうかしたのか戸神?」 「いえ、何と言うか、話が重かったといいますか、切ないといいますか……」 俺が別に重要な話じゃなかった分、申し訳なさすぎる。 そんな俺の表情を見てか、マスターは軽く笑う。 「気にするな、私が話したくて話していることだ」 「え、あぁ、はい……」 駄目だ、申し訳なさすぎる。
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