誕生日のち出会い

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気まずさに目だけを下に向ける俺にマスターは続ける。 「そうだな、旅を続けて六年余りか、この街にやって来たのは。あの人に鍛えてもらった腕で、私たちはこのギルドに入ったのだ。魔物も倒せるようになった、生きていく術も学んだ、友人もできた……まあ、だからこそかもしれんな」 一息つくと、儚げにふっと笑う。 「もう、大丈夫と判断されたのだろうな……唐突に、一通の手紙を残してあの人はいなくなってしまった。私はまだよかった。だが、レイアはな……お前も見たのだろ?」 「確かに、病的なまでに慕ってるようでしたね。まるで……」 その先の言葉は俺の思い過ごしだと思っていた。そこまでじゃある訳ないと。 でも、そうではなく 「あの人はどんな時も過度に私たちを甘やかさず、それでいて、誰よりも優しかった。勉学、雑学、生活、人との接し方……学んだ事は数知れない。あの六年で、母さんとは違う、父親と云うものを知った。そして私はあの人こそが父だと思うようになった……だがな、レイアは違ったのだ」 家族愛じゃない、だとすると残るのは…… 「抱いたのは同じ愛だ。だが、あいつの愛は家族に向けるものではなく一人の異性として、男としてあの人を愛していたのだ」 「お、おぉ……」 当たってた。けど、本当の父親ではないんだし近親うんちゃらではないんだけど、問題があるとすれば…… 「分かったか……それだけが問題なのだ。まあそれは置いといて、レイアはな、あの人がいなくなっても他人に悟られないよう明るく振る舞い続けた。我慢して、溜め込んで、そうして一年、丁度居なくなったその日にあの人は帰ってきた。その時、レイアの中で何かが弾けたのだ」 「覚醒するための種ですね、分かります」 「何を阿呆なことを……いや、お前の世界にはそういうものがあるのか?」 「ええ、一応」 俺の受け答えにマスターはうーむと唸ると、椅子に腰深く座った。 「そうなのか……ふむ、やはり異世界と云うのは興味深いものだな」 「そうでしょう、そうでしょう」 まあ、間違ったことは言ってないし。
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