誕生日のち出会い

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「……っと、話が逸れたな。まあ何と言ったものか……欲望とでも言おうか。あの人が年に一度だけ帰ってくると、レイアの理性が吹っ飛ぶのだ」 「そんな、そこまででもないような気が」 珍しいっちゃ珍しかったけど、好きな人に久しく会えばあれぐらいのスキンシップは普通な気もする。 けどマスターはそうじゃないんだと首を振る。 「今年はお前という例外があったから一年でなく二ヶ月しか経ってない。それであの様だ。単純計算六倍の期間、しかし恋やら愛というのは掛け算ではなく自乗のようなものだ」 あれの自乗を六回…… 「凄そうですね」 「凄そう、か……実際に体感した身から言わせてもらえば、そんな次元ではない。最早狂気の沙汰だ」 悪夢でも思い出すように、マスターは震える。自分の妹をそこまで言うとは、余程なんだろうな。 「それでマスターは初代に陸に甘えられない、と」 「うむ、そうな……っと、そ、そ、そんな訳が!!……い、いや、なくも……ないが……何か悪いか!?」 珍しい、開き直った。顔を紅くし睨むマスターがホントに子供に見えたのは秘密だ。まだ死にたくない。 「いえ、何も悪くないですよ。俺の世界でも一人が甘えてもう一人は甘えられないなんて話ざらですし」 「そ、そうか……。ま、まあ話を戻すが、あの人が“育ての親”の理由はこんなとこだ」 恥かしいから話を切り上げたいんだろう。質問させようとしない圧力を感じる。 でも、一つだけ 「カラムって人は、どうしてるんですか?」 その名に、マスターは懐かしそうに笑う。 「ああ、おじさんか。あの人なら、今も元気でいるぞ。初代と出会ってから一年後か。会いに行ったが、それはもう怒られたな。遅い、何してたんだ!!と」 嬉しそうに、楽しそうにマスターは言う。 「それから、是でもかと飯を食べさせられたな。あの時は、本当に死ぬんじゃないかと思った。それから奥さんと、それに娘さんたちとも会って……三人とも、今でも良き友だ。お前もその長女には頻繁に会ってるのだがな」 にやりと、怪しく口角を上げる。俺の知り合いで……はて、さっぱりわからん。 「誰ですか?」 「エアリィだ」 「な、何だってぇぇ!?」 驚いた、これは驚いた。
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