誕生日のち出会い

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「西から何でこっちの大陸に?」 「私も訊いたことがあったが何時もはぐらかしてな。お前が訊けば、もしかしたら教えるかもしれんぞ……っと、長く話し過ぎたようだな。隠れるぞ」 「へ?え、ちょ……ぬおぉぉっ!?」 マスターがテーブルに上ると説明もなく首を掴まれ、部屋の隅にあるベッドまでぶん投げられる俺。 ボフッと顔面から落ちそのまま奥に仰向けに転がり落ちると、マスターもベッドに落ちた音がし、俺の横に落ちてきた。 「マスター、何で……」 「すまんな、見てれば分かる」 匍匐前進のポーズで身を潜めながらベッドの下を指差す。何だと思いベッドの下の隙間から部屋の中心に目をやると眩い光。魔方陣が現れ青く輝き、次に見えたのは四本の足だった。 そして声が部屋に響く。 「あら、椅子が動いて……ここに誰か?」 「……気のせいですよ。レイア、下にいる皆にも挨拶をしたいので行きましょう」 「あ、は、はいっ」 扉の開く音に俺はつい顔を上げた。そこで見えたのは紳士な男性とその左腕に抱きついている女性の幸せそうな横顔だった。 一瞬だったけど、綺麗だと思った。一枚の絵に描かれた恋人の一風景のようで、あまりのお似合いっぷりに目を奪われた。 そのまま扉が閉まり俺とマスターは起き上がる。 「と、まあこういう事だ。さて、私も書類整理に戻るとするか」 何でもない、いつも通りだという風に変わらぬ口調で扉へと向かっていく。 「…………」 俺が考えてることはデリカシーが無い気がした。それでも訊きたくて、声を出す。 「マスター、寂しく……ないんですか?」 甘えたいと、そう言っていた。その想いがあるのに妹に全て譲る、それは苦しくないのかと。 マスターは扉を開けた状態でこちらに振り返ると、苦笑しながら言った。 「そうだな……寂しくないと言えば嘘になるな。だがな……」 少し間を開け、マスターは初めて見る優しげな表情を浮かべる。 「私はレイアの姉だからな。あいつが幸せなら、私も幸せなのさ」 そう言い、マスターは扉を閉め、廊下を歩いてく音がする。 無理してる様には見えなかった。小っちゃい発言で簡単に怒るのを除けば、マスターは俺なんかより大人だった。 あの言葉を素で出すのは、俺には到底できない気がする。
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