誕生日のち出会い

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「俺も……行くか」 そして扉を開けた時だった。脳内に声が流れる。 『翔くん、スフィアを呼んでくれないかしら?準備ができたって言ってくれれば伝わると思うから』 「え、あ、あぁ……りょーかいです」 『それじゃ、お願いね』 プツンと、電話が切れるように声がしなくなった。相変わらずエアリィさんの魔法は心臓によくない。 特定の人物と波長を合わせ、脳内に直接語りかける高位魔法『チューン』。名前は単純なのにこのギルドでもエアリィさんしか使えない補助魔法の最高位に位置する魔法ときた。 余程の、それこそ泥棒騒ぎの時しか使わなかったのにマスターを呼ぶだけに使うとは…… 「まあ、いっか」 外に出て右のマスターの部屋へと向かい扉を開く。 「マスター、エアリィさんが呼んで……?」 部屋に毎時ある書類の山は何処にも見当たらず、視界には広々とした机に突っ伏すマスターの姿。 書類整理……もう終わったのか?一瞬過ぎる、仕事の鬼かこの人は。 休んでるのを邪魔するようだけど、仕方ない。 「マスター、マスター!!」 声を大にして呼びかけると、はっとしたように顔を上げた。 「なっ、戸神!?お前いつの間に!?」 「今さっきですよ。けど何かすいません、仕事終わらせて休んでる時に」 「え、あ、いや……う、うむ、気にするな。それで、何の用だ?」 取り繕うように姿勢を正すマスター。何だろう、妙に慌ててるような……まあいいか。 「エアリィさんから伝言です。『準備ができた』だそうです」 その伝言に覚えがあるのか、あぁとマスターは納得したように頷く。 「相変わらず行動が早いなあいつは。そうか、もう出来たのか。なら、行かぬ訳にもいかないな」 立ち上がり、俺の横を通って行ったマスターに取りあえずついていく俺。 さて、何の準備だ? 「マスター、一体……」 訊くと、階段を下りながら言う。 「お前は知らないのか。まあ、見ればわかるさ」 答えは敢えてなのか言わなかった。そして、何も分からぬまま階段を下りきった瞬間漂う、香しい匂い。 普段は左右に分かれてるテーブル群が中心に集まっており、皆が席に着き、その全てに料理と酒が並んでいた。 「ほぁ……」 唖然とする俺に、マスターは横目でふふんと笑う。 「驚いたか、普段顔を見せない奴もいるだろ。これはギルド恒例でな。初代の無事を祝っての、帰還祝いだ」
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