誕生日のち出会い

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「いいよ、もう……」 許したというより諦めたように斜め下を向かれた。知らぬ間に傷つけていたとは、分からなかった。 「なあ、八尋―――」 何か、気の利いたことを言おうと思考を巡らせていた時だった。円の中心のテーブルから透き通った声が広がる。 「全員、ジョッキを掲げるのだ!!」 マスターの言葉に今まで騒いでいたメンバーが皆、口を閉じ飲み物の入ったジョッキを掲げる。 「翔も、ほら」 ミーシャが小声で囁き、ジョッキを俺の手に持たせる。よく見たら上げてないの俺だけだ、やばい。すぐにジョッキを掲げ、マスターは皆を一望すると続ける。 「このギルドも創立されて早数百年が経った。幾人もの先代方により積み重ねられた歴史。その礎を築き、支えてこられた我らが初代が五年ぶりに帰還なされた。我々が気を揉む次元の方ではないが、それでも私は皆とこの再会の感動を分かち合いたい」 一息つき、ゆったりと、マスターもジョッキを頭上へと持っていく。 「では、初代の無事を祝い、また、これからのギルドの繁栄を願い―――乾杯!!」 『乾杯!!』 至るテーブルから一気に歓声が沸きあがる。一気飲みする人、酌み交わす人、周りの人と軽快な音を立てる人、様々だった。同じなのは、みんな笑顔だという事。 雰囲気につられる質ではないけど、気づけば俺も笑っていた。その時、視界に入る四つのジョッキ。 「はい、翔。乾杯しよ」 ミーシャは変わらぬ何時もの笑みを浮かべ 「翔っち、ほれ」 リックさんは頬を若干赤く染め、既に一気飲みした後の二杯目のジョッキを俺に向ける。 「翔さん、乾杯しましょ」 アリシアは嬉しそうに両手でジョッキを丁寧に持ちながら そして――― 「祝いの席で拗ねてるのも馬鹿らしいからな。……なあ翔、俺たち、友達だよな?」 何を心配してるのか、再度訊いてくる八尋。そんなもの、決まってるだろうに。 「当たり前だろ。女の子みたいに女々しいこと言うなって」 「いや、今は女だけどな。そっか、友達だよな。うん、そうだよな……」 よく分からんが納得したらしい。これで、大丈夫かね。 「それじゃあ、皆、乾杯!!」 「「「「乾杯!!」」」」 小気味良い音と一緒に、俺たちはジョッキの中の物を飲み干した。
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