誕生日のち出会い

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―――――― 「―――ですから、ルピスカ族は老若にゃんにょ問わず、みんな白髪なのが特ちょうなんですよ……って、聞いてますか翔さーん」 「聞いてる聞いてる。そして俺はその話をもう十回は聞いてるから」 「それでですね―――」 「あ、もう駄目だこれ」 顔を紅くし、焦点の合わぬ目で身を乗り出しながらアリシアは十一回目の説明を始める。 八尋の一族、ルピスカ族は別名“薬の伝道師”。北の大陸の人里離れた土地で生活しており、過去から現在に至るまで様々な良薬を生み出してきた。 しかしそれと同時に毒も数多く生まれ、暗躍に使われた事もしばしば。 そこから、調合師がルピスカ族問わず、忌み嫌う者も現れたとされていると。 それとは別に、理由は解明されていないがルピスカ族は一日の中で5:1の割合で男なら女に、女なら男に変化するらしい。 不定期に起こるそれもまた、避けられる要因にもなってるようで。 八尋曰く、『受け入れてはいるんだ。理解してくれる人はいるから、そうだろ?』と。 色々、大変な思いをした上での結論と言っていた。そんな八尋もここにはいない。 酔いに酔ったマスターがひょっこり現れて、「こいつが八尋か?」と確認すると、有無を言わさず連れてったのだ。 今はカウンターで二人並んで薬の話で盛り上がっている。ただの少女と話が合うと勘違いしてるあいつが、いつあれが我らのマスターと知るのか楽しみだ。 「―――ですから……かけるさーん、聞いてますかー?」 「ん、ごめん聞いてなかった」 「いけないぜ翔っち。女性の話は最後まで聞いてから、そこで最適な相槌を打つのが男の役目ってもんよ」 「いやいや、誰のせいでアリシアがこんなに酔ってるという話です」 「俺のせいと言うのか?」 「絶対それしか有り得ない」 乾杯した時、アリシアが飲み干したのはブドウジュースではなく葡萄酒だった。そこから言えるのはリックさんはアリシアとジョッキを入れ替えた事実。しかしリックさんが反省する訳もなく 「じゃあこうすればいい訳だ」 並々と、ジョッキに注がれる葡萄酒。リックさんはそれを 「ほれ、アリシア」 「ちょっ!?」 「わー、ありがとうございます。それでは―――」 迷う事無くアリシアは一気に飲み干し 「ぷはっ……あれ、なんだか、くらくらして……あうー」 あ、潰れた。
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