誕生日のち出会い

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テーブルに伏すアリシア。それを見てリックさんは達成感を帯びた顔で無い汗を拭く素振り。 「んー、これで万事解決だな」 「どこがですか。悪化しかしてない」 「良いんだよ。酔ったら潰れるまで飲むのが酒に対する礼儀だ。それに翔っちだって同じ話を聞くのにうんざりしてただろ」 「いやまあ、それはありますけど……」 ちらりとアリシアを見る。酔い潰れた顔が妙に色っぽく見える……とか関係なくだ。 潰れた以上、この空間から退避させるべきなんだが……これは、俺が行くしかな「翔、それは……駄目だよ?」 立ち上がろうとした瞬間、横から抑揚のない声が。見れば、確実に目が据わっているミーシャの姿。斜め前には空いたジョッキが五つ。 妙に静かだと思ったら、なんでミーシャまで酒を飲んでるんだ…… 「えっと、ミーシャさん?何が駄目なんですかね?」 「嫌らしいことを考えてるとこ」 「なっ!?そんなことは……」 少しあったり 「アリシアは私が連れてくから、翔はそこで静かにしてて」 有無を言わさぬ眼力でミーシャは席を立ち、アリシアを背負うとすたすたと外へ出て行った。 「惜しかったな、役得チャンスだったのに……勿体無い」 当事者よりも残念そうに肩を竦め、酒を一杯。 「誰のせいでこうなったと……」 「そんな怖い顔すんなって。俺もこの状況を作ってくれと頼まれた結果なんだよ」 「……頼まれた?誰にですか?」 「すぐに分かるさ。【転移】」 ふっと、赤の魔力を漂わせ、その場からリックさんが姿を消す。呆気に取られる中、入れ替わるように席に転移してきた男性が一人。 「初代……!?」 紛う事無く初代だった。 「え、えっ!?」 あれ、初代はレイアさんと……あれ?向こうにも初代……ん? 「こういう事には驚くのですね。訳を話せば、君ともう少し話したくてね。リックに代わりを頼みました」 「あれ、リックさんなんですか?」 「ええ、皆には幻術をかけておきました」 「げ、幻術……何でそこまで……」 話なら、上の部屋ですれば事足りるような気がするけど。 俺の疑問に答えるように、初代は気付かぬ周りを見渡しながら微笑む。 「リンにですね、『貴方は茶目っ気が足りない』と昔、言われましたから。取り入れてみました」 その茶目っ気は間違ってると言わざるを得ない。
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