誕生日のち出会い

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「それで、話とは?」 ある一人を除いて被害は出てないから気にするのはやめよう。切り替え、訊くと初代はにっこりと笑う。 「君がまだ迷っているようでしたから、簡単な助言をと思いまして」 迷ってる……か、そうかもしれない。 「俺は、どうすべきなんでしょう……」 「そうですね…………話は変わりますが、私はこのギルドが好きです。私がこの世界に来たばかりの頃、がむしゃらに生きて、夢見て、目指したものが……皆が笑って過ごせるこの場所が数百年の時を超えて今も在り続ける。築いた者として、これ程幸せなことは無いでしょう」 ゆったりとした動作で葡萄酒を一口、初代は続ける。 「それがもし、何かの手により壊されようとしたなら、それが皆では対処の仕様が無い事であれば、私はこの身の全てを持ってそれを駆逐するでしょう。いつまでも死なない過去の者が出しゃばるなと言われても、私は表舞台に立つでしょう」 「…………」 「つまりはそういう事です。人は気付かぬだけで、誰しも守りたいと思うものがあるのです。それに気付き、見えたなら、他人に理解されなくとも、守るために走り、戦える筈です」 「守りたいもの……」 俺が守りたいものって、何だ? 「無理に考える必要はありません。ただ、君には見えてる筈です。今はまだ、気付いてないだけで。全てが平和に、丸く収まるならばいいでしょう。しかし、世界はそこまで甘くはありません。決断を迫られたとき、君の思う守りたいものが、君にとって一番の選択へと導いてくれるでしょう」 「……難しいですね」 「そうかもしれません。けれど、例えば……あの子は君が守ろうと命を懸けて、今、此処にいる。そうではありませんか?」 問われ、初代の目線を追って振り返れば、扉を開けて入ってきたミーシャの姿があった。 魔族とは戦った。けど、あれは守ったというのだろうか…… ミーシャは酔いが醒めたのか顔から赤みは消えており、俺を見つけると軽く手を振り……そして何故か固まった。 「ミーシャ?どうしたんだ?」 呼びかけると、ミーシャは笑顔を引きつらせてこっちに歩いてくると、初代の前に立ちぺこりと腰を曲げ言う。 「お久しぶりです、初代……いえ、師匠」
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