誕生日のち出会い

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「君はこの世界を楽しんでいる。ならば、死ぬのはまだ早いでしょう。大丈夫、あの子は教えるのも上手です」 知っている、嫌というほど知っている。ミーシャのスイッチの入った時の恐ろしさは。 「まあ……それでもまだ七割なんですよね」 「ええ……しかし、後の二割は君の覚悟次第です。それで五分と五分、対等な闘いになるでしょう」 そう言われても、やっぱり想像できないのが俺で。けど、まだ死にたくはないのも事実。 「……分かりました。頑張ってみます」 俺もまだ、この生活を失いたくはないから。 「いえ、私は外の人間ですからね。後輩にしてあげられるのはこういうお節介だけですから」 そう言って微笑む初代の背後にゆらりと佇む人影。 そこから伸びる手。 「初代っ!?」 それは蛇のように初代の首に絡み付き、その締め付けは正に大蛇のごとく。キリキリとその首を折らんとする力の込め具合はさながら怪物のようで。 常人ならこの世とおさらばするレベルの技と怪力に、初代は顔色一つ変えないで我が子を宥めるようにその手を撫でる。 「少し、苦しいですよ。レイア、貴女はまた酔ってますね」 「酔ってません。それより兄様ー、あっちで飲みましょう?」 そう言い張るレイアさんの顔は、どう見ても泥酔してる人のものだった。大人の雰囲気は欠片もなく、少女のように明るく幸せそうで。 酔うんだ、レイアさんも。蟒蛇かと思ってたのに。 ふと、影武者を勤めていたはずのリックさんに目を向けると、姿は初代のまま、腹を押さえて悶えていて、エアリィさんとミーシャが介護している。 犯人が明確すぎる。恐ろしい限りだ、恋する乙女。 「レイアも鍛えているのですね。私の幻術を破るとは驚きです」 「えへへ、嬉しいです。ならご褒美欲しいです」 「はいはい、分かりましたよ。……翔くん、済みませんが行かせてもらいます」 申し訳なさそうに謝る初代に苦笑いしつつ首を振る。俺も腹を撃ち抜かれたくない。 そのまま去ろうとする二人に、一つだけ。 「初代」 「何ですか?」 「俺も、お節介かもしれませんが――――――」
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