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――――――
帰り道―――空は暗く、星が見える時間に翔とミーシャは並んで帰路を辿る。
宴会騒ぎが続くなか、お先にとギルドを出た二人だが、会話が弾まない。家族の死の予告はミーシャの心を予想以上に揺さぶっていた。
「翔は、死なない…よね……?」
力ない問い掛けに翔は答えれず歩く。五割は死ぬと言われたのだ、嘘はつけない。それでも伝えるべき事はある。
「分かんないな……けど、死にたくはないな」
「そこは…『俺は死なない』って、断言してよ……」
「……嘘はつけないから」
「ばか……」
また、会話が途切れる。
それでも、生死に関しての嘘だけは吐く訳にはいかなかった。昔、翔は言った『自分は死なない』と。
でも死んだ。
だからこの世界にいる。
その人を思っての嘘でも、嫌だった。
だからこそ、翔は代わりの言葉を使う。自分の気持ちを伝えるために、言葉を変えて。
「じゃあさ、ミーシャが俺を鍛えてよ。目一杯、仙道さんと戦うまでに。そしたら俺、頑張るから」
「……最初からそのつもりだよ」
前を向き喋る翔と、俯きがちに答えるミーシャ。
まだ駄目かと、翔は続ける。
「なら良いじゃん。俺だって、生きたい。だから自分がやれることはやるつもりだし、足掻くから。そしたらきっと、俺は死なない……はず」
思いの外、上手く言えずあーと唸る翔。これは駄目だと言い直そうとし、頭を掻きながら横を向くがそこにミーシャはいない。
地面に伸びる影に目を向けると、数歩先にミーシャが立っていて。
くるりと軽やかに反転し、振り向いた少女の表情は―――笑っていた。
「翔はいつも、きっととか、筈とか、曖昧だよね。自分から約束してくれないし」
「……ごめん」
「待ってる私に心配ばかりかける。だから―――」
ビシッと指差され翔はたじろぐ。そのままミーシャは不適な笑みを浮かべウィンク一つ、言い放つ。
「覚悟してよね、私の指導は厳しいんだから。翔が弱音吐いてもビシバシいくからね」
「お手柔らかに……って言いたいけど、駄目そうだ」
「もちろん、手は抜かないから。お日様が出たら修行開始だよ」
「早いなぁ」
「ふふっ、明日は早いよ。さ、帰ろ?」
「……りょーかい」
思いは伝わった。
二人は並んで、他愛のない会話をしながら家族の待つ家へと向かっていった。
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