出会いのち妖精界

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特訓を始め、ゆらりゆらりと時は流れて初冬間近。葉は完全に色づき、散るもしばしば。街では住人の半袖姿は殆ど見当たらなくなったよい寒さで。 街が新たな季節を楽しむなか、俺はヒンヤリ地下深く、今日も今日とて組んで転んで投げられて。 石の地面に叩きつけられ、寒さで痛みが倍増したかの如く、地下体に響き渡る俺の体の悲鳴の声。 「はい、それまで」 続くは審判、もとい秋のお洒落を取り入れ済みのレイアさん。 その合図で口を開くは猫被りの表現が良く似合う、地上とはうって代わって容赦の欠片が微塵もない熱血指導猫耳少女。 「―――ふぅ、良い感じだよ翔。私も少し危なかったし」 運動タイプのチャイナドレスで毎日毎日俺を叩きのめす家族兼師匠、ミーシャ。 「痛い……すっげぇ痛い」 そして私、戸神翔。 地下での修行はミーシャ曰く、『基礎は一通りクリアだね。じゃあ実戦しよ』といった段階まで来ていた。 最初は二人でやってたのだが次第に暇人がちらほら現れるようになり、今ではレイアさんはほぼ毎日来てる。 他には変に言い訳をしながら来るツンデレさん、酒の摘まみと訓練を肴にする酒飲み、ツンデレさんと何故か一緒にくるナイスガイ、栄養剤を差し入れする薬屋、子供連れのシスター、様々だ。 それと 「戸神ー!!今日こそ勝負しろー!!」 扉を開け放ち侵入してきたのは、一人修行を終えて最近帰ってきた戦闘バカ。 「やだよ、今から夕飯だ。俺は疲れた」 「昨日も同じこと言ってたじゃないか!!今日は勝負しろー!!」 ランクを一つ上げ、新技を修得したとかでとにかく五月蝿い。 「絶対お前に勝てる!!それを今、証明したいんだ!!」 「はいはい、分かったよ。じゃあ近くまで来てくれ」 「おお!!受けてくれるのだな!?」 嬉しそうに笑い、千夜が駆け足でリングに上がってきた。さて…… 「よし、じゃあ……」 「来い!!」 「じゃんけーん」 「へ?」 「ぽい」 人は虚を突かれると決まった手を出してしまう。千夜の場合はそれが濃く現れる。 よって――― 「俺、パー。千夜、チョキ。はい、千夜の勝ち。いやー負けちゃった。悔しいなぁ……じゃ、これで」 「おいぃぃ!!ふざけるな!!私が望んだ勝負はこんなものじゃ……」 「知らん、勝負はした。さいなら」 騒ぐ千夜を無視し、一人先に扉を出て階段を上る。千夜には悪いが、こっちもやらなきゃならないことがあるんでね。
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