出会いのち妖精界

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ギルドを出て、向かうは天心……ではなく街の西区。灯りの点いた喫茶店の隣、『薬屋』と扉横に看板の建てられた一軒家。 扉を開けると薄暗い店内で、客の来店を知らせる鈴の音に奥から女性の綺麗な声が響く。 「すいませーん、今行きま……って、何だ、翔か」 「客に何だとは流石、巷で噂のミステリアス美少女さんですな」 「うっさい、茶化すな。こっちも苦労してるんだぞ。まあ、この体質でややこしくなるのは慣れてるけどな……」 そう言いつつも疲れたようにフードを脱ぎ、顔を見せる八尋はやはり女性に変化していた。 「いいじゃんか、確かに美少女だぞ」 冗談で口にすると、八尋は顔を歪めカウンターに肘をのせて嫌そうに口を開いた。 「お前みたいに冗談で言われるなら俺だって笑い飛ばせるさ。けどな、本気で、しかも照れながらだったり真面目に言ってこられる俺の身にもなれよ。宣伝してくれたのは本当に有り難かったし、助かってる。けどな、他にやり方があっただろうが!!」 最後は叫んでいた。 当初、客足の無い八尋のために、出前の度に面白可笑しく街の人に触れて回ったのだがこれが好評で。 気になった人が来店し、今はそれなりに知られ、危険もないと分かると遊戯用薬を買う人も居たりと、繁盛とは言えぬまでも遣り繰り出来るレベルにはなってる反面、ストレスも溜まりやすくなったらしく。 「すまん、こうなるとは思わなんだ」 予想外だった。 まさか、話が広まってくうちに八尋女性バージョンに胸ときめかせる男が現れようとは。 しかも数人。 驚いてばか笑いしたのは良い思い出。 笑い薬を顔面にぶちまけられたのも良い思い出。 真剣に申し訳無い気持ちはあったので頭を下げると、八尋は困ったように戸惑い。 「い、いや、翔も善意でやってくれたようだし……そんな気にしてないから、頭上げてくれって」 「あれそう?じゃあ良いや」 スッと顔を上げる俺。 「おま……ははっ、このやろう。……そういや、アレの件で来たんだよな?ちょっと待ってくれ…よ……と、あったあった」 通常運行でふざけあったのち、カウンター下をガサゴソと漁り、出ててきたのは小さな小瓶。中には桃色の粉が詰まっていた。 八尋はその小瓶を摘まみ、俺の目線に持ってきて言う。 「昨日出来たんだよ。これが人の匂いを消す薬、『消臭香』さ」 「そのまんまだな」 「うっさい」
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