出会いのち妖精界

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―――――― 事の発端は一週間前 ミーシャのスパルタ指導に疲弊しながらも帰宅し夕飯を終え、自室でのんびりと翔が寝転んでいた時だった。 「……店長?」 扉を叩く音に翔は起き上がり尋ねる。天心で扉を叩くのは店長とミーシャだけ。そして頻繁に来るのは店長だった。 だからこその問い掛けだったが返答はない。 「ミーシャ?」 じゃあと思い呼ぶがやはり返答はなく、不審に思った翔が立ち上がり扉に近付こうとすると、それより先に扉が開く。 それは翔の想像しない人物。 ひょこっと出てきた金の髪に翔は驚きの声を上げる。 「フー!?どうしたよ、戸を叩いたりしちゃって。いつもはそんなことしないくせに」 言われ、フレリアは顔を覗かせるとえへへと微妙な笑みを見せながら言う。 「ちょっとね……今、いいかな?」 「?……ああ、大丈夫だぞ」 「じゃあ、入るね」 隙間に身を滑り込ませるように入室し、扉を行儀良く押して閉めその場に降り立つ。 それだけで翔は目を見張った。 普段のフレリアならまず断ったりしなず、ダイナミック入室して居座るか、喋りたいだけ喋ったらミーシャの部屋に戻る。 それが翔とフレリアの日常。 「……何かあったのか?」 だから翔が疑問に感じたのも当たり前だった。 「……少しね、前から考えてたことがあるんだ」 フレリアは呟くように喋り始める。 「ここでの生活が楽しくて、目を背けてたけど……いつまでも逃げてて良いのかなって。…………ううん、駄目だって分かってる」 これが家出の話だと察し、翔は黙って耳を傾ける。 そしてフレリアは俯き、苦しそうに続ける。 「でもね、どうしたら良いか分かんないの……帰ってもまた口論になって、結局、同じことの繰り返しにしかならない気がして…………ねぇ、翔」 フレリアは顔を上げ、不安の色を隠しきれないまま翔を見た。自分で解決しなくちゃいけないと分かっていてた。 「私、どうしたら良いのかな……?」 けど、それが出来ずに、頼った。 部屋に沈黙が訪れた。 フレリアの母であるメルディアからある程度の事情は聞いていた。複雑で簡単な問題では無いことも知っていた。 不確かな、曖昧な事は言えない。 ただ、何も言わない訳にもいかず、翔はフレリアの瞳をしっかりと捉え言う。 「フー」 「……うん」 「―――すまんが、何をすれば良いかなんて俺には分からん」
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