出会いのち妖精界

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――――マッタリとした昼下がり パチリ、パチリ、と何かを置く音が教会の一室でテンポ良く鳴っていた。 その室内では机を挟んで、少年少女が小難しい顔で緑のマットに黒の線で碁盤目に仕切られた正方形の台を互いに睨みあい続ける。 それに表裏が黒と白の小さな円上の物体を置いてはひっくり返すを延々と繰り返していた。 当初は参加していた妖精は、いつの間にやらお茶菓子をのんびりと摘まんでいて。 「ふむ……」 戦況が進むにつれ、少年、翔は焦っていた。 (不味いなこれは……) 盤上では四隅のうち既に二箇所がアリシアの手中に落ちていた。教えてた身の筈が一時間足らずでフルボッコ間近と来た。 翔も巧いわけではない。それでも初心者同然のアリシアに敗けるのは避けたかったのだが、現在の戦績は2勝2敗1分。 5戦目にはさらりと誘導され角横に置くしかない状況に追いやられる始末。 負け越すわけにはいかない。起死回生を願い置いた一手は 「翔さん……」 「ふふ、どうだアリシア?」 「あの……」 「ん?良いよ、長考しても」 「いえ、チェックメイトです」 「……おう?え?ちょ、置けない俺。あ、止めて、黒が消えてく。あああ、あぁ……うわ、なにこれ、スッゴい、真っ白」 とんでもない悪手だったという、そんなオチ。 二人の対決はアリシアの勝利で幕を下ろした。翔はオセロを横に避け、背凭れにぐでッとだらしなく背を預ける。 「盤が埋まる前に全取りとは、情けなくて泣けてくる」 「えへへ、すみません。つい、楽しくって」 紅茶を淹れなおしながら、アリシアは淑やかに笑う。 そんな表情を見せられてはと、負け組も笑うしかなかった。 「それは良かった。それでだけど、今日は本当はアリシアに話があって来たんだ」 「話、ですか?」 「そ、正確にはリックさんなんだけど」 「リックさんが?一体……」 思い当たる節が無いとアリシアが悩むなか、翔はオウムのように繰り返す。 「『アリシアも妖精界に連れてっちゃあくれないか』だって。どう、マスターにリックさん、それにミーシャも行くんだよ」 「…………」 「思いもよらず団体旅行みたくなっちゃったけど、フーも良いって言ってるし。なあ、フー?」 「うんっ、アリシアも一緒にいこ!!」 「と言うことで、行かないか、妖精界に?」 「………………」 返事は無かった。
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