出会いのち妖精界

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石のように固まったアリシアの目の前で翔は手を振る。 「アリシアさーん、起きてますかー?」 「…………」 だが、我が心此処に在らずとでもいうかのように席に着いてフリーズしたまま動かない。 これは駄目だと翔は暫く放っておく方向に転換し、フレリアの食べていた菓子に手を伸ばした。 そして十分後。 寛いでいた二人に、訪問客が。リビングの戸が勢い良く開かれ、元気溌剌に少年が声を上げる。 「アリシア姉ちゃーん!!ボール忘れ……あれ、兄ちゃん!?それに妖精さんも!!」 「おう、シア。お邪魔してるよ。それで、どうした?」 「えっと、ボール忘れたから取りに来たんだ。兄ちゃんも一緒にやらない?」 「サッカーか。行ってやりたいとこだけど、今日はアリシアに用事があってな。すまん」 「そうなんだ……」 「そんな顔するなって。明日また来るから。ほれ、みんなが待ってるんだろ?」 「あ、そうだった。姉ちゃん、ボールを……姉ちゃん?」 呼び掛けても石像と化したアリシアは返事をしない。不思議に思い近付いて揺すること数回。 「姉ちゃん、姉ちゃん」 「―――はっ!?え、シ、シア?帰ってきてたの?」 「うん。それよりボール」 「え、ボール?」 欠片も声が届いてない。翔は仕方無いなと口を挟む。 「アリシア。シアはサッカーしたいからボール出してほしいんだと」 「あ、ああ、そういうことですか。シア、ちょっと待っててね」 やっと目が覚めて駆け足で階段を上がっていくアリシアを眺めながら、シアは頭上に?を浮かべる。 「兄ちゃん、姉ちゃん何かあったの?」 「んー、俺が遠回しに言うべきだった」 「?」 「また明日にでも詳細を話してやるから。ほら、ボールが来たぞ」 汚れたボールは抱えられながら階段を降り、シアの手にと渡る。 「はい、気を付けて遊んでくるのよ」 「うん、じゃあ行ってくる。またね、兄ちゃん、妖精さん」 「ん、またな」 「またねー」 シアは入ってきた時と同様、元気な笑顔で走っていった。行けば良かったかなと若干の後悔を残しながら、翔は話を戻す。 「で、アリシア」 「はい?」 「どうする?」 「……えっと、何のお話でしたか?」 「オセロの後にしたお話」 そこまで聞いて、アリシアは表現状の擬音ではなく実際にピシッと音をたてて固まった。 「またか」 「まただね」 やれやれと肩を竦めながら翔とフレリアは互いを見やり、菓子をつまみ始めた。
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