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ポカン……と阿呆なまでに目を丸くさせ固まる翔を余所に、レイアは優雅にティータイムを続ける。
「もう一年前になるかしら……。詳しくは言えないけど、クエスト先で妖精を助けて流されるままに妖精界に連れてかれたのよ」
その強引さに妖精への認識が180度変わったとレイアはクスクスと笑う。その口振りに嘘は一切感じられず、翔はこれで合点がいったという具合に頷く。
「一回行ったことがあるからいいと言う訳ですか」
「あら、そうでもないわよ」
「え?」
帰ってきた否定の言葉に理解が及ばぬ翔。それじゃあ何故と口を開けようとして、しかしそれは阻まれる。
「言葉にするのが難しいくらい美しく、綺麗な世界だったわ。行けることなら何度でも行きたいぐらいよ。ただ、今回はアリシアに譲ったの。あの子にも、あの世界を見てほしいから」
嘘偽りの無い想い。しかし、状況が違えばまずレイアは代理を立てて同行していた。
諦めがついたのは、妖精界に行くよりも天秤が大きく傾く現状から。ある誰かに人目を気にせず甘えられるからと言う特典が、天秤を地面に叩き付ける勢いの威力であったからと言う事を、翔は知る由もない。
レイアの言葉を信じきって翔が尊敬の念を抱いていると、2階から扉の開く音と楽しげな会話の声に、条件反射で翔とレイアは階段に目を向ける。
階段を下りながら尚も会話を弾ませるフレリアとアリシアの姿に、話が纏まったと判断するには十分で。
翔はふと指折りながら向かう人数を確かめる。最初は2本だった筈が左手には収まりきらぬ人数になってることに思わず笑った。
遊びに行く訳ではない、下手をすれば面倒な事態になることも大いに有り得た。それでも、翔も皆と同様に、旅行気分になりつつあったりして。
まだ見ぬ世界に期待を膨らませながら、翔も会話へと入っていった。
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