妖精界のち親子

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―――――― 俺達四人は空を見ていた。ただそれは景色を眺めてるのではなく、運動会で一生懸命に走る子供を見る父母の表情に近いものだと思う。微笑ましい光景に皆の顔が綻んでいる。 発端は数分前、懐かしの故郷を飛び回るフレリアを見ながら、マスターの零した言葉だった。 『私も飛べたら……』と。 それは俺だけが聞いていた。満足し戻ってきたフーにある指示を受けた後。こっそりと耳打ちすると、快く了解してそろりそろりと忍び足でマスターの背後に近づき、脇下に手を入れて一気に飛び上がったのだ。 そして輪を潜るように、浮かぶ魔法陣を潜り抜けながら飛び交い始め今に至る。 「楽しそうですなー」 「ほんと、フィアのあんな表情、俺も久しく見たぜ」 溌剌と遊ぶ子供の顔にしか見えないのが何とも。 「マスター、楽しそうですね」 「何と言うか、生き生きしてるよね」 四人して親の心境にほのぼの。ただ俺も正直羨ましいと少しは思っていたり。 「さて、そろそろ俺達も先に行きますか」 フーによると、この丘からどの方角に向かってもある場所に行きつくらしい。 フローヴァルで言う検問所みたいな所があるらしく、先に行こうと言う訳だが…… 「…………」 「……アリシア、どったの?」 「えっ!?いえ、何でも……」 気になり顔を斜めに俯かせたアリシアが見ていたものを見る。 「……ああ」 同じように考えているんだから分かり易い。遠慮がちなのは何処にいても変わらないのか。両手を口に、俺はその場で大声を上げる。 「フー!!アリシアも頼むぞ!!」 俺の声は届いたようだ。フーが小さく丸を描いたんだから大丈夫だろう。マスターは大丈夫じゃなさそうだけど。 「か、翔さん!?」 「シアも言ってたし、頼まれたからな。それじゃ、先に行ってるから」 これで間違ってたら笑えんな。何か言っているアリシアを丘に残し、少し先にいたミーシャとリックさんに追いつき歩き出す。すると、横から肩をバシッと叩かれ 「翔っち、その心遣い、満点だぜ」 リックさんが笑う。前を歩くミーシャもくるりと反転して微笑む。 「私も、満点をあげるよ」 「……それはどうも」 気恥ずかしくて下を向いた時だった。ふっと、ミーシャの足が消えたと思った瞬間、景色が一変した。 気づけば、俺達は木々に囲まれた小さな湖の畔に立っていた。
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