妖精界のち親子

5/30
前へ
/605ページ
次へ
静かな空間に辺りは生い茂る木しかなく、通れる道も見当たらない。 「翔……ここ、何処かな?」 「何処だろう……リックさん分かります?」 「俺に分かる訳ないだろ」 「ですよねー」 検問所らしきものは存在せず、湖も波一つ立てない。 数分経ち、三人して途方に暮れかけたとき、不意に湖の水が浮き上がり始めた。それは段々と人の形を成していき、そしてふっと光るとスリムな女性になった。 整った顔立ちに水色の瞳の若干の吊目は、俺より高い位置から見下ろしてるからか威圧的で。そのまま水色の、腰まであろう長髪をさらりと後ろに流し、同じく袖なしの水色のワンピースを整える。 身形を正し、水面に降り立つと女性は俺達に手の平を向ける。 「人間が三人か。お前たち、一体……ちょっと待っとくれ」 女性は急に出してた手を口元に持っていき、是でもかと大きく欠伸をかました。 「ふぁぁ……久しぶりに起きたものじゃから眠くてのぉ。ほんに眠いのぉ……して、お前たち、どのような術でこの世界に来たのだ?召喚使でもないようじゃが」 そう訊きはしてきたものの女性は物凄く眠たそうで、形式上訊いてるだけみたいな雰囲気満点で。 どうやらこの人がこっちでいう検問官みたいだが、さて……。どう答えるか悩んでいるとリックさんに肩を押される。 「ほれ、よく分からんが、女性を待たせるもんじゃないぞ」 分からん状況を後輩に任せるのはどうなのか。別にいいけど。その場から一歩前に出て俺は口を開ける。 「俺達は、えっと、とある妖精の招待を受けて妖精界に来ました」 何故か名前を伏せて言ってしまったが、それが良かったのか女性が少し興味を持ったように目を開く。 「ほぉ……ふむ、して、その妖精は何処に居るのじゃ?」 「あー、もうすぐ来る筈なんですが……」 今頃マスターと交代してアリシアと空を飛んでるんだろうなぁ。うん、暫く来ない気しかしない。 「歯切れが悪いのぉ。儂を騙そうとはしてないようじゃが……ふぁ、まあ良い、その妖精の名は何じゃ?」 欠伸を挟み、気怠そうにそう問われた。まあ変に隠す必要もないだろうし、良いか。 「フー……じゃなくて、フレリアと言う名の、女の子の妖精です」
/605ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5171人が本棚に入れています
本棚に追加