妖精界のち親子

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フーの名に女性が目をぱちくりさせ訊いてきた。 「フレリアとは……ミスティア家のあのお転婆娘の事か?」 貴族だから何気に有名人なのか。しかし周りからも言われてるとは、やっぱりお転婆なんだ。 「ええ、そうです」 そう返すと、口元を綻ばせてそうかそうかと頷く。 「此処に来るときは何時も独りだったお転婆娘が人間を連れてきた…と。かっかっか、これは愉快なものよ」 女性は高らかに笑うと、水面から少し浮き上がり俺の目の前で止まった。そして左からリックさん、俺、ミーシャの順に数秒ずつ見渡してまたも笑う。 「三人とも澄んだ魔力じゃ、問題は無いのう。それに……」 「はい?」 俺を見下ろし、女性は懐かしそうに言う。 「皆、この世界を訪れる定めなのかのぅ。なぁお主、そうは思わぬか?」 「え、えっと、何のことだか……」 意味が理解できないでいると、女性は気にしなくとも良いと水面へと戻っていき 「老の戯言と思ってもらって構わん。さて、儂が……ウンディーネがお前たちを無害と判断したわけじゃが……ふむ、何処に向かいたいかの?」 尋ねられて、それより気になった発言に誰も突っ込まないので俺は待ったをかける。 「ウンディーネって、つまり水の精霊ってことですか?」 「うむ?そうじゃが……お主、水が人を模ったのだからそのくらい察するべきじゃぞ。現にお主の横の二人は理解していたように見受けたが?」 その言葉に左右の二人に向くと、逆に分からなかったのかとリックさんに目で問われ、ミーシャは苦笑い。何だ、知らなかったの俺だけとか。 「まだ疎いもんで。けど、なんでこんな小さな湖に?」 精霊なんて大層な存在が、こんな辺鄙な場所にいることが意外だった。するとウンディーネは何でもないように 「ただの気紛れじゃ。単に、此処を気に入っただけじゃ。それに、此処は大切な友人との一時を過ごすには最適での」 「友人と、ですか……」 「お主には分からぬだろうが、数えるのも億劫な程に生きておると色々あるのじゃよ」 「…………」 斜め上を、遠い何かを見つめるその瞳は寂しげで。人の一生とは比べ物にならないんだろう。だから、俺は何も言えなかった。
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