妖精界のち親子

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皆が押し黙った。周りの雰囲気もあってか、暗い空気になったのを吹き飛ばす様にウンディーネは手を振った。 「いかんいかん、暗いのは苦手での。この話は終わりじゃ。それよりも何処に転移を……うむ?」 急に金縛りにでもあったようにピタリと止まったかと思うと、精霊はひとりでに笑い出した。 「ふむ……かかっ、そうか、メルの言っていた人間はこの小僧の事だったか。うむ、うむ……相分かった。そこに転移させよう。うむ、それではの」 一瞬驚いたが、それはまるで友人と電話でもしてたように楽しげに喋っていた。そしてウンディーネは見えぬ誰かとの会話を終えると、ゆったりと腕を広げる。 「友からの頼みじゃ。すまぬが従ってもらうぞ」 瞬時に、湖の水が俺たちを取り巻いていく。 「ぬあっ!?」 「うおっ!?」 「きゃっ!?」 なにこれこの水温い!?人肌で暖めてたみたいに温い!!なんか気持ち悪い!! 色々な意味で驚く俺達を尻目にウンディーネは言う。 「それではの、また会おうぞ」 水が球状に俺達を包み込み、笑顔で告げられた言葉を最後に視界が暗転した。 気付くと、俺達は見知らぬ部屋に立っていた。明るい部屋は壁には景色絵、大きめのベッドに木造りの丸いテーブルにイスが四つ。 奥には化粧棚に、右横の窓脇には棚の上に花瓶に花が飾られていて。ギルドにあった客人用の部屋を、広く、豪勢に仕立てた感じの部屋だった。 「翔……ここ、何処かな?」 「何処だろう……リックさん分かります?」 「分かる訳ないだろ」 「で……何これデジャヴ」 ぽんぽんと場所が変わりすぎてまるで夢みたいだ。悪い意味でだけど。転移酔いなるものに陥りそうになっていると、前にある扉がゆっくりと開かれた。 そこから現れたのは俺の良く知る人物……じゃなく妖精だった。 「えっと、お久しぶりです」 「ふふ、お久しぶりですね、翔さん」 だいたい1ヶ月振りぐらいか。何時ものように軽く挨拶をしているとミーシャが目を白黒させていて。 「え、フ、フーちゃん?」 リックさんも珍しく驚いた顔を見せ 「たまげたぜ……チビッ子をまんま大人にした姿だな。翔っち、この妖精は……」 訊かれて説明しようとしたが、それは遮られた。 「そちらのお二人は初対面でしたね。初めまして、フレリアの母のメルディアと申します」
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