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「もうっ! またボーッとしてる。」
ふてくされたような女性の声で我に返った。
「和也さんってばいつもボーッとして。」
頭を手の先でかきながら申し訳なさそうな素振りで笑顔を見せる和也。
心地好い風が桜の花と踊る桜木の下にあるベンチで二人は座っていた。
「そうだ。 今日はここで一緒に写真を撮ろうよ。」
そう言いながらポケットから携帯を取りだし和也は恋人の亜季と寄り添い写真を撮った。
カシャッ。
「よし。いい感じ。
また一つ思い出が増えたね。」
二人は何処にでもいるような恋人達と何ら変わりもしない。
ただ一つ違うとすれば毎日必ず「一枚」の写真を撮る事。
「それ」は和也が考えた事なのである。
黒くて美しい髪が夕焼けの赤褐色に染まり、亜季は和也の肩に手を置き体重をかけながらゆっくりと立ち上がった。
和也はジッと亜季が立つのを見つめ
「手をかそうか?」
亜季は和也に心配かけまいと威張るように
「ううん。もう一人でも歩けるようになってきたから心配しなくても大丈夫です。」
それでも和也は亜季の歩幅に合わせ右手を手に取りゆっくりとゆっくりと歩いた。
「さぁ、家へ帰ろうか。」
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