2002年

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ほとんど口を開くことはない。 中学生になった少年は3年の間クラスの人間とろくに会話をしたことがなかった。 何年も人との関わりを避け続けていた少年の虚ろな目の先は地を見つめ緩く弧を描く背中と太陽の光で火傷してしまいそうな程の青白い肌は、クラスの人間から見ても少年がどの様な生活をしているのかが分かる。 酒癖の悪い父の暴力に耐えきれずに母が出ていったのは記憶にある。 優しい母が父に殴られる日々に少年は恐怖し部屋に入り鍵をしめ足を抱え耳を塞いでいた。 父と二人で生活をしていく事を強いられた少年は大好きだった母からの愛情も不十分で何かに甘える手だても知らず家に帰るなり部屋から出なくなった。 少年の殻に閉じた心は全ての事に関心が薄れていった。 唯一の友達と言えるものがあるならばキーボードのついた40センチ四方の画面。 毎日まいにち家から学校へ。 学校から家へ。 自転車で40分はかかる道のりを少年は歩く。 もちろん自転車の乗り方を知らない。 こんな日々に生きていく事の喜び楽しみを見出だせずにいた。 いつものように口を開くことなく学校の校門を出て帰宅中に、紅葉を踏みつけて思い出した。 家と学校の中間くらいに小高い山があり、正面から長い石段を登ると無人の神社がある。 学校側から神社へはろくに舗装されていない山道を登らないといけない。 子供達が使う裏道である。 少年は幼い頃に大好きだった母に連れられ大きな紅葉の木の下で遊んだ記憶があった。 何に対しても関心のない少年の心を刺激するかのように家に帰らずに裏道から神社へと向かった。
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