序章

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五月九日 夕  四角い模様が見える。よくよく見たら、どうやら天井だった。  目を動かすと、医療機材が大量に見えた。黒いモニターに映る緑の線が、ピッピッピッピッと音を立てている。多分俺の心音を刻んでいるのだ。  俺の心音?  いやいやいや、俺の心音を刻んでいる訳が無い。だって、心臓は止まっただろう?  いやいやいやいや、何で心臓が止まったんだ?ああ、うん、死んだからだ。  …死んだ?生きてるじゃねえか。いや、有り得ない。俺は死んだ。間違いなく死んだ。だから違和感があるのだ。  でも生きてるって事は単にそう思い込んだだけの話で、『重傷を負ったが助かった』的な状態なのかもしれない。  …いや、やっぱおかしいな。諦めない質の俺が、死んだと思ったのだ。俺は俺の死を確信した筈なのだ。何故だ?俺は何故生きている?確信した筈の死から、どうやって逃れたんだ? 「…き……聞こえ…」  気付いたら、周りを医者や看護士が囲んでいる。彼らは何かを俺に言っているが、よく聞こえない。  意識が遠退いて行く。  眠い。とにかく眠い。  …眠い。
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