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<あの日の前日>
いつもどおり俺は家をでて学校につくまでの時間のギリギリまで布団のなかで過ごしている。
俺は今が一日のなかで一番好きな時間だ。鳥の鳴き声。わざと少し開けたカーテンから射す金色の光。自分の体温でぬくもった布団。二年前、交通事故で失った妻(俺から見れば母だ。)にかわって朝食を作る父が花柄のエプロンをつけて、俺の部屋まで来る足音。
?
今日はやけに遅いな。いつもならそろそろ…
!
昨日の父の言葉が頭をよぎった。
「しまった!」
あわてて布団をけとばし、跳ね起きる。
「明日は、朝イチで市場視察があるから起こせないからな。」
そうだった。くそ。
誰に対しての侮辱の念ではなく、自分の失態をたった二文字で表現できるのはすばらしいことだ。英語なら四文字掛かるからな。
ということを言っている場合ではない。ギリギリの時間を五分ほどオーバーする予定の俺の朝。父が朝飯を用意してくれていた。いや、正確には置いていた。
「さすが。我が父だ。」
俺はまた父の思惑通り今日も動いていた。
肩に学校指定の鞄をかけ、家の鍵をして、通学路を走る。
俺の左手は父の勝利を示す栄養補給飲食物を握っている。
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