78人が本棚に入れています
本棚に追加
……看板には、そんなことが書かれていた。
(……うそだ……)
ぼくは、今度こそ震えが止まらなくなった。今さっきまで見ていた看板と、ぼくが見ている看板はまったく同じ看板のはずなのに、まったく違うことが書かれている。まったく同じ看板なのに、まったく違うことが書かれている。今度はもう、見間違いでもなんでもなかった。
ぼくの見ていないほんのわずかの間に、看板に書いてあることが変わってしまったのだ。
(……どうして……どうしてこんなことに)
ぼくはあまりの薄気味悪さに、思わず看板から離れた。とにかく、誰か人に会いたかった。ぼく以外の人に会って、ぼくが見た光景を誰かに伝えたかった。看板に書いてあることがいきなり書き換わるなんて、無茶苦茶だ。ああ、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
早歩きですたすた歩いて、人を探してみた。でも、知っている人は誰もいない。ぼくはあまり、ニビシティまで来ることはないからだ。そのことが、ぼくを余計に不安にさせた。
(あっ、そうだ。ニビシティには、トモキ君がいたんだっけ)
ぼくはそこで、ニビシティには友達のトモキ君が住んでいることを思い出した。そうだ。トモキ君に会おう。トモキ君に会って、ぼくが見た光景を伝えよう。そうしよう。
(こっちだったっけ)
ぼくはトモキ君の家に進路を変えて、また歩き始めた。トモキ君なら、きっとぼくが見た滅茶苦茶な光景も信じてくれるはずだ。そうすれば、ぼくだって少しは安心できるはずだ。
(早く会わなきゃ)
ぼくは早歩きしていたのをもっと早くして、半分ぐらい走るような感じで、トモキ君の家を目指した。
「……………………」
でも、そこにトモキ君の家はなかった。トモキ君の家だけが、そこになかった。
最初のコメントを投稿しよう!