壁はゆめの五階で、どこにもゆけないいっぱいのぼくを知っていた

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(どうして……つい一週間前に、会ったばっかりなのに) トモキ君の家のあった場所は、何もない、綺麗な更地になっていた。草もぼうぼうに生えていて、まるで昔からここだけが空き地だったみたいに、何にもなくなっていた。右隣の家や、左隣の家は、ぼくがこの前来たときのまま残っているのに、トモキ君の家だけがなくなっていた。 (引っ越したなんて、ぼく聞いてないよ) トモキ君のほかに、ぼくはニビシティに知り合いはいない。そのトモキ君が、今はもうここにはいないのだ。つまりぼくは、あまり来たことの無いニビシティで、独りぼっちにされてしまったのだ。 その途端、ぼくは足がすくむような思いがした。ここからマサラタウンまでは、トキワの森を抜けなきゃいけないから、ものすごく遠い。一日かかって、やっと抜けられるかどうかっていうぐらいだ。家に帰れるか、不安になってきた。 (とにかく、家に帰らなきゃ。家に帰れば、きっと元通りになるはずだ) ぼくはそう思って、今度はトキワの森に足を向けた。 (家に帰って、お母さんのご飯を食べて、ぐっすり眠れば、みんな忘れられる) そうだ。今日起きたヘンなことは、一日経てばみんな元通りになるはずだ。ぼくはそう思って、とにかく急いで家に帰る事にした。家に帰って、今日は早く寝よう。 ぼくはなるべく早く歩いて、思ったよりも早く、トキワの森へとつながるゲートまでたどり着いた。ゲートをくぐれば、そこはもうトキワの森だ。 ぼくはゲートのドアに手を掛けてから、今までに起きたことを思い出して、 (ちゃんと、ゲートにつながってるよね) ちょっと不安になりながらゲートの扉を、恐る恐る開けた。 すると……
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