壁はゆめの五階で、どこにもゆけないいっぱいのぼくを知っていた

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(ああ、よかった。ちゃんと、トキワの森へつながってるゲートだ) 今までに何度か顔をあわせたことのある守衛さんと、いつもゲートにいる女の子がいた。よかった。ここは、ヘンなことになってない。きっともう、あんなヘンなことは起きないんだ。ああ、よかった。 ぼくはなんだか安心して、守衛さんに挨拶をしたくなった。 「こんにちは」 守衛さんはぼくに気付いて、こんな返事をしてきた。   「このきは なんだか きれそうだ!」   そう言ったきり、守衛さんはまた、ぼくから視線を外してしまった。ぼくは呆気に取られて、しばらくぽかんと口を開けたままにしてしまった。 (やっぱり、まだどこかヘンなんだ) ぼくは心臓をいきなり鷲掴みにされたような、すごく怖い気持ちになって、夢中でドアを開けた。やっぱり、まだどこかおかしいんだ。 (でも、このドアはちゃんとトキワの森につながってるはずなんだ) そうだ。ぼくが開けたさっきのドアは、ちゃんとここにつながっていた。だから、このドアもちゃんと、トキワの森につながってるはずなんだ。そうだ。そうに、違いない。 (早く、行かなきゃ) ぼくはドアを開けると、一気に外へ出た。
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