壁はゆめの五階で、どこにもゆけないいっぱいのぼくを知っていた

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「……………………」 でも、ぼくの思いは、あっけなく裏切られてしまった。 (そんなあ……ここ、タマムシシティのデパートじゃないか……) ぼくがゲートを開けた先に出たのは、ぼくの住んでいるマサラタウンから遠く遠く離れた、タマムシシティのデパートだった。前に何度か来たことがあるから、すぐに分かった。 ああ、ぼくはもうどうすればいいのかさっぱり分からない。確かにトキワの森につながるドアを開けたはずなのに、ぼくが今いるのはタマムシシティのデパートだ。何から何まで、滅茶苦茶だ。 (ああ、やっぱり、どこかヘンになっちゃったんだ。ぼくの知らない間に、滅茶苦茶になっちゃったんだ) ぼくは泣きたい気分だった。周りを見回してみても、知っている人は誰もいない。皆、見知らぬ人ばっかりだ。 と、ぼくがふと隣を見てみると。 「……………………」 「……………………」 ぼくと同じぐらいの男の子が一人、釣竿を持って立っていた。デパートの中で、釣竿を持って立っていた。 その光景が、ぼくにはすごくおかしな光景に見えた。だからぼくは知らない間に、その男の子に声を掛けていた。
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