壁はゆめの五階で、どこにもゆけないいっぱいのぼくを知っていた

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「すいません」 ぼくはいつものように、看護婦さんに話しかけた。 ……でも。 看護婦さんは、ぼくにこう答えたのだ。   「通信ケーブルクラブへようこそ。こちらは通信ケーブルをお使いの方を、特別にご案内しております」   今度は、ぼく耳がおかしくなったのかと思った。ぼくは看護婦さんに話しかけたはずなのに、看護婦さんはお隣の、通信ケーブルクラブのお姉さんの言うような言葉を言った。 (……おかしいなあ。どう見ても看護婦さんで、ちゃんとリカバリーマシンもあるのに、言っている事が滅茶苦茶だ) ぼくはちょっと薄気味が悪くなって、もう一回話しかけることにした。ひょっとしたら、看護婦さんは寝ぼけていて、お隣で仕事をしているものと勘違いしちゃったのかも知れない。もう一回話しかければ、きっといつもと同じように返事をしてくれるに違いない。 ぼくはそう考えて、もう一回話しかけた。 「すいません」 「通信ケーブルクラブへようこそ。こちらは通信ケーブルをお使いの方を、特別にご案内しております」 ……さっきと、まったく同じ返事が返ってきた。今度は間違いなく、ぼくの耳にもしっかりと聞こえた。目の前の看護婦さんは、確かに、お隣のお姉さんがいうようなことを言ったのだ。
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