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「ふっ……」
口喧しい……とまではいかないが、やたらとしつこく遊びやなんかを誘ってくる級友と離れ、一息つく。別につるむのが嫌な訳では無いが、一人で居る事の方が気楽である事も確かだ。
教室を離れれば騒ぎも小さくなり、硝子越しから見える校庭からは野球部だか陸上部だかの怒声やら掛け声が聞こえてくる。
何時もの風景何時も通りの日常。そんな事を考えると何とも言えないモヤモヤが胸の辺りを刺激するのも何時もの事。
「ん?」
ふと足を止める。確か目の前の多目的室はどの部活も使っていなかった筈。生徒でさえも入る奴はいない。それなのに何かをぶつけている様な音が時々聞こえてくるのは耳の錯覚か。
もう一度同じ音がなった所で竣は思案する。つまり、その音の正体を突き止める為にその教室へと入るか否か。だ。
だが、好奇心旺盛の『誰か』とは違う為か、竣は頭を振って下の下駄箱へと続く階段へと向かう。必然的に多目的室の音は無視する事になる。
が、
「あっ……」
竣が丁度階段を下ろうと左に曲がろとした瞬間。目の前の多目的室から一人の女子が扉を開けて、顔を覗かせた。その小さな身長に見合った小さな両手に大量の楽器を抱え込んで。
そして何をするでも言うでも無く、竣を無言で見つめて来る。そのいたたまれない空気に堪えきれず、竣が先に口を開いた。
「な、何ですか?」
この学校のクラスメイトすら満足に覚えていない竣は、一応先輩かも知れないと、丁寧な口調で問い掛ける。
それでも何も言わず、此方を見つめてくる女子に、再び無言になってしまう竣。
そう言えば、と。女子を見返す。思わず吸い込まれそうになる瞳。目は一般から見れば少し細いかも知れない。それに少し短いツインテールも特徴的であり、背も小さい。何より女子の一番気にする所もまっ平であった。
が、そんな事はどうでもいい。問題は最初に見た時に思わずハッと息を飲んでしまった顔。美しいとか綺麗とかそう言うのではなく、あまりにも似ていたのだ。
―――三年前に他界した妹に。
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