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「……手伝ってくれたら嬉しいな。」
「え?」
不意に目の前からそんな言葉が発せられ、竣は思わず疑問符を付けて返してしまう。先程まで無言で立ち竦んでいたこの女子が、手伝ってと竣に言って来たのだ。
竣は一瞬考えたが、やはり見ず知らずの女子を手伝う義理も人情も無いのだからと思い、その申し出を断ろうと口を開いた。が、出てきた言葉は、
「別にいいですけど……」
であった。その言葉に自分で驚き、どうしてそう答えてしまったのか頭の中で自問自答する竣。だが時が戻る訳でも、先程の言葉を取り消してくれと言える訳でも無く、更に言えばこの目の前の女子の少しホッとした様な少し嬉しそうな顔を無視して逃げる事も出来る訳無く、一つ嘆息した。
「それで、何をすればいいんですか?」
潔く……は無いが、諦めた竣は何をするべきかと目の前の女子に問う。大体の察しはつくのだが、如何せんこの無口な女の子は何をするか分からない。
と、その女子が三度目の口を開いた。
「……雨宮渚。」
「え?アマミヤナギサ?」
一瞬何の事だか分からず、オウム返しをしてしまったが、それがこの目の前の女子の名前だと気付き、竣も慌てて自分の名前を口にする。
「えーっと……俺は川瀬竣。えっと、よろしく?」
変な自己紹介になってしまったが、最後まで言い終わった竣に雨宮は無言で頷き、これまた無言で今まで持っていたトランペットやらフルートやらを竣に押し付けた。慌ててそれを抱え込む様に受け取る竣に雨宮は無言である場所を指差す。
それは、
「なるほど……」
高さ170センチといった所にダンボールが置かれており、そこにガムテープの上からトランペットやフルートの文字が。
つまりこの雨宮と名乗った女子はそのダンボールに楽器をしまいたかったのだろうが背が小さい為届かず、先程までの物をぶつける音を鳴らし続けていたのだ。
無論身長が175センチある竣にとってはそのダンボールに楽器をしまう事は雑作でもない事で、一分もかからない内にしまう事が出来た。
すると、それを眺めていた雨宮が唐突に竣の袖を引っ張り、床を指差した。
「まだ……何かあるんですか?」
ややうんざりした口調で問う竣に、目の前の小さい小さい女子――雨宮は無言でコクリと頷いた。
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