001(言うなれば序章の一部だが)

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でも。 だからこそ… 彼女の言うことが本気だとわかったからこそ、 言った。 「…待てよ。」 今思えば、自分を安心させたいがために言ったのかもしれないが。 「僕を殺したら、アシが付くんじゃないのか?」 その一言に関心したように彼女は返した。 「へぇ。意外と冷静ね。 てっきり、恐ろしくてキモチワルイ私に殺されそうになって、気が狂っちゃうかと思ったけど。」 「…恐くない。」 「え?」 「気持ち悪くもない。」 首にかかっていた力が弱まった。 「だって、世界は元々不自然で、不確かで、得体のしれないモノじゃないか。 ちょっとだけ別の視点から見れば、違和感しか感じない。 だから、魔女(お前)が存在したって、僕は別に恐くも気持ち悪くもない。」 荒神は、一瞬だけ驚いた顔を見せ、 「―ぐ!!」 それから、僕の首を握る手に力を込め直した。 「さっき私、"得体のしれない現実を否定して、新しい現実を造りだした"って言ったけど、そのきっかけを教えてあげるわ。」 「え…?」 「吸血鬼、に噛まれたのよ。 存在しないと思ってた存在にね。」 言うと同時、荒神は僕の顔のすぐ側まで寄り、 首筋に、噛み付いた。 「ぐっ…ぁ!!」 ビリビリするような痛みが走った。 当たり前だ。歯で首筋を噛み付かれたのだから。 彼女の犬歯が身体に突き刺さる。 吹き出した血が、彼女と僕の頬に飛び散った。 思わず抵抗しようとした僕を、貧血のような症状が襲い掛かる。 視界が青く、黒くなって消えていく。 全身が寒いのに、首だけがジンジンと熱く感じる。 頭が重い。頭痛がひどい。 膝が震え、立っていられない。 ここで気を失っちゃまずいとわかっていながら、 それでも逆らえない、抗えないような痛みと彼女に全てを支配されたように、 糸の切れた操り人形のごとくその場に崩れ落ち、 死んでしまった。 と思った。
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