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でも。
だからこそ…
彼女の言うことが本気だとわかったからこそ、
言った。
「…待てよ。」
今思えば、自分を安心させたいがために言ったのかもしれないが。
「僕を殺したら、アシが付くんじゃないのか?」
その一言に関心したように彼女は返した。
「へぇ。意外と冷静ね。
てっきり、恐ろしくてキモチワルイ私に殺されそうになって、気が狂っちゃうかと思ったけど。」
「…恐くない。」
「え?」
「気持ち悪くもない。」
首にかかっていた力が弱まった。
「だって、世界は元々不自然で、不確かで、得体のしれないモノじゃないか。
ちょっとだけ別の視点から見れば、違和感しか感じない。
だから、魔女(お前)が存在したって、僕は別に恐くも気持ち悪くもない。」
荒神は、一瞬だけ驚いた顔を見せ、
「―ぐ!!」
それから、僕の首を握る手に力を込め直した。
「さっき私、"得体のしれない現実を否定して、新しい現実を造りだした"って言ったけど、そのきっかけを教えてあげるわ。」
「え…?」
「吸血鬼、に噛まれたのよ。
存在しないと思ってた存在にね。」
言うと同時、荒神は僕の顔のすぐ側まで寄り、
首筋に、噛み付いた。
「ぐっ…ぁ!!」
ビリビリするような痛みが走った。
当たり前だ。歯で首筋を噛み付かれたのだから。
彼女の犬歯が身体に突き刺さる。
吹き出した血が、彼女と僕の頬に飛び散った。
思わず抵抗しようとした僕を、貧血のような症状が襲い掛かる。
視界が青く、黒くなって消えていく。
全身が寒いのに、首だけがジンジンと熱く感じる。
頭が重い。頭痛がひどい。
膝が震え、立っていられない。
ここで気を失っちゃまずいとわかっていながら、
それでも逆らえない、抗えないような痛みと彼女に全てを支配されたように、
糸の切れた操り人形のごとくその場に崩れ落ち、
死んでしまった。
と思った。
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