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立ち上がり、悲しい決意のもと桜の幹に手を押し当てる。
そこで、同化しようとしたところで躊躇いがちにふと手を離し、魔法使いのいなくなった後の一人寂しそうな息子の姿が浮かんだ。
「音姫ちゃんや、由夢ちゃんがいるから寂しくはないと思うけど、一人にさせちゃうね」
いつだって、優しい息子は彼女の為に食事の用意や我が儘を叶えてくれていた。それを思うと、自分の代わりに息子の傍にいれる人を望んでしまう。
「どうか、僕の代わりに義之君の傍にいてくれる存在が現れますように」
兄と呼び慕ってきた従兄弟でも良い、実の姉弟のように育った姉妹でも、周りにいる息子を大事に思っている彼等だって、もしくはーこんな浅はかな願いを受け入れてくれる新たな人だって良いのだ。それが、自分の知らない者だとしても。
その願いを口にした時、枯れない桜がまた一つ願いを叶えた。
魔法使いの願いをーー。
「えっ?」
桜から現れたのは、背中まである漆黒を連想させる艶やかな髪を持ち、淡い桃色のワンピースに白のカーディガンを羽織った裸足の高校生くらいに見える一人の少女。
魔法使いは目を見張り、声を出せずに少女を見つめるだけ。
辺りを見渡し、魔法使いと枯れない桜に目を奪われたように動かなくなった少女。二人の視線が交錯する。
二人は時が止まったかのように、ただただ立ち尽くしていた、お互いから目を逸らすことが出来ずにー。
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