5人が本棚に入れています
本棚に追加
◇◇◇
俺は放課後何をするわけでもなく、校舎から少し離れた場所にある野戦演習場の観客席に来ていた。
ぼーっとしながら目の前のスクリーンモニターに映し出されている退屈な戦闘を、一人しかいない観客席から眺めているだけ。
横浜から見えるいくつものメガフロート《人工浮島》の一つが、風見ヶ丘学園所有のメガフロートで、毎日のようにここでは訓練が行われているのだ。
「進歩がない」
意識せずに呟くように出た言葉。
目の前で行われている生徒達の必死の訓練がお遊びにしか見えなかった。
幼少の頃から死と隣合わせで生きてきたからそう言える。
だから俺は“ごっこ”には付き合わない。
全校生徒の中の精鋭を集めても自分に傷一つつけることは出来ないだろう。
それだけ彼らとの実力差があるのだ。
「参加しないのですか?」
不意に観客席に現れ、声をかけて来たのは敬だった。
彼もまた楓の正体を知る人物の一人である。
横臥と違って敬は楓の正体を正確に把握しているということだ。
その理由は、敬が政界の大物議員で北郷礼二元首相の孫にあたり、何度か警護の仕事を引き受けたことがあったからだ。
「子供の喧嘩に大人がでしゃばるか?」
楓の問いにただ笑い、
「喧嘩はね。でも遊びなら交ざることもあるでしょう。まぁ、かつて十二人の大聖魔導を束ねたレイナード=カルヴァドス=クリスタを倒したハルベルト=ミスティス=クリスタが、平凡な高校生を演じるのも滑稽ですが」
「ふん。気まぐれを起こしただけだ」
そうだ。
俺は目的を果たしてすることがなくて“暇つぶし”をしているだけだ……
そう。魔導師レイナード=カルヴァドス=クリスタを倒してから。
「まぁ、今の魔法文明は貴方のお兄様の賜物ですがね。少々複雑ですよ。碑文の影響が大きすぎたのかもしれませんね」
敬はそういって観客席から立ち上がる。
「タブレットの欠片……碑文の力は人間には大きすぎる。まぁ、悪用する奴がいたら消すさ」
俺の言葉を聞いて安心したのか、
「学生生活を満喫してください。私の命を救った貴方は少なくとも私にとっては友人以上……貴方の心の安らぎを祈ってますよ」
そう言うって静かに観客席から立ち去った。
目の前のモニターでは既に戦闘の決着がついていた。
安らぎか……
最初のコメントを投稿しよう!