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なんとも物騒なことを口走る連中だろうか。
これだから平静生まれのゆとり世代は……
「殺すなんて軽々しく口にしないでくれる? あんた達みたいな虫けらが殺せるのは蟻一匹ぐらいでしょうね」
「こいつ、いい加減にしろよ!」
今まで黙っていたもう一人の野球帽をかぶった男が手を振り上げた時だった。
俺はとっさに走った。
「ちょっと待ったあ」
一昔前に流行ったテレビ番組ネルトソ風に掛け声をあげると、一瞬男の動きが止まりその場の全員がこちらに振り返った。
俺は百八十センチの体を生かして三人纏めてボディプレスをしかけた。
タイミングが良かったのか、三人は俺に押し倒されてコンクリートに頭を打ち付け気絶した。
「大丈夫か?」
「ふん。あんた出てくるの遅いのよ」
なんとまあ、のぞき見をしていたのを既にご存知だった様子。
「それはどうも。助けなきゃ良かったか?」
助けたはずなのに何故か不機嫌のラクセリアは、
「助け方が格好悪い。掛け声がダサい。あんたって正義のヒーローに向いてないわ。はぁ……やっぱりこの国も退屈ね。伝説の魔導師あたりが出てきてくれれば少しは面白かったのに」
そりゃどうも。格好良くないし伝説の魔導師でもなくて悪かったな。
てか伝説の魔導師?
嘆息つきながらさっさと歩きだすラクセリア。
どうでもいいがこの女は助けられて礼の一つも言えないのか?
まあ、そんな礼なんかより聞きたいことがあったので、俺は後ろを追いながら、
「伝説の魔導師って?」
「名前なんか知らないわ。昔私が日本に住んでたことがあるの。イギリスに家族で引っ越した時だったわ」
懐かしそうな表情を浮かべながら話すラクセリア。
その横顔はどことなく綺麗だった。
「へえ。日本語が上手いのはその為か」
「まあね。私頭いいし」
しれっと自分で言いやがった。俺が敢えてツッコミを入れようとしたが機を逃す。
「当時イギリスは魔導師マフィアによる誘拐が頻繁に巻き込まれたわけ」
へえ、随分と物騒な世の中だな。
魔導師がマフィアをやるなんて。いやマフィアが魔導師か? この際どちらでもいいか。
「その時、マフィアの邸宅に単身乗り込んできた殺し屋がいたのよ」
可哀相に。マフィアと殺し屋の戦いに巻き込まれ頭のネジが飛んだんだ。
チンピラ三人を前にしても怖がらないわけだよ。
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